エッジコンピューティングなどに圧倒的な戦闘力
「調査検討を進めていくなか、5G IPデータ転送でLAN側から1Gbps以上を引き出すためには、10GbEに対応したSoCと4GBを超える大規模メモリが必要なことが判明しました」
社長からの命を受け、最速への挑戦を始めた研究開発部 チーフIoTアーキテクトの村上一生氏。当初はファームウェアのチューニングによって、700Mbpsくらいまで速度を上げられないかも試みたというが、15~20%程度の高速化にとどまり、期待値には遠く及ばない。やはり必要なのは、ハードウェアの抜本的な見直しだった。
IDY 研究開発部 チーフIoTアーキテクト 村上一生氏
最速を目指して、社内の開発環境も強化した。疑似基地局のアンリツ社製のテスター「MT8000A」に2CC CA(2波キャリアアグリゲーション)200MHz、4×4 MIMO機能を付加。最大3.2Gbpsのテストが行える環境を整えた。
そうして誕生したのが、通信速度にとことんこだわったiR800Bである。最上位機種に恥じぬ圧倒的な戦闘力の5Gエッジゲートウェイに仕上がっている。
ではiR800Bは具体的にどんなスペックを有しているのか。2025年4月から一般販売が始まった最初のモデル「iR800B-102」について見ていこう。
まずSoCには、「Arm Cortex-A73 Quad-core 1.8GHz」を採用している。メモリは4GB DDR4、8GB eMMCおよび128MB Flashだ。プログラムメモリも十分に搭載しており、エッジコンピューティングにおいても高い能力を発揮する。
次はインターフェースだ。フロント側には、USB3.2 Type-Cホスト×3と、物理SIM 2枚に対応したnanoSIMスロット、microSDスロット。リア側には、10GbE SFP+×1、10GbE LAN×1、1GbE LAN×2と、RS232/485および2系統のDIO端子も用意する。
電源に関しては、DC12-24Vに加えて、USB PD(USB Power Delivery)もサポート。さらに、iR800B-102は、Wi-Fi 6やBluetooth 5.2、GNSSなどに対応する。5Gエッジゲートウェイに詳しい方であれば、まさに“別格”のスペックを備えていることがお分かりになるはずだ。
サイズは従来シリーズより大型化した。IDYはこれまで、LTEルーターから5Gエッジゲートウェイまで、CPEのサイズをすべて同じに揃えてきた。同一サイズの方がマイグレーションは容易だからだが、iR800Bの筐体寸法は180×103.9×24.8mm(フランジ、SMAコネクタ除く)と、体積比でiR730Bの約1.9倍になっている。しかし、その性能を考えれば、むしろコンパクトと評価できるに違いない。
なぜ2.4Gbpsを実現できたのか USBモデムは3.0Gbps達成
下り最大2.4Gbpsは、次の条件で叩き出した。iR800B-102は3GPP Rel.16規格に準拠し、3CC CA 200MHz、4×4 MIMOに対応する。測定環境はMT8000Aを疑似基地局として用いて構築。5G SAのn79(4.5GHz帯)で接続し、定番のネットワーク帯域測定ツール「iPerf3」で計測した(図表)。
図表 iR800Bのスループット測定環境
高速化を実現できたのは、10GbE対応のSoCだけが理由ではない。「パケットステアリングによる各コアへの負荷分散やメモリ使用方法が大きな影響を与えます」(村上氏)。10GbE LANと10GbE SFP+間の実測速度は9.4Gbpsを記録したが、ここからも明らかな通り、SoCの性能を十二分に引き出した結果、辿り着いた最速性能なのである。
今回IDYでは、ドローンやロボットなどに適したUSBバスパワー動作の5G USBモデム「iS201B」についても同環境で計測を実施。iS201BはSoCを介さず転送する分、オーバーヘッドが少なく済むため、下り最大3.0Gbpsの超高速を達成した。
ドローンなどでの利用を想定して開発された5G USBモデム「iS201B」
なお、iR800Bが高速なのは下りだけではない。村上氏によれば、準同期で上り重視の設定を行えば、ローカル5Gで驚きの上り速度も実現可能だ。iR800Bの登場を機に、5Gは産業用途でもギガ時代に突入する。
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