「今回の買収による変更には受け入れがたいものがあった。声を大にして要望しているが、ブロードコムのレスポンスは悪い」
長くVMware製品を扱ってきたあるSIerの担当者は率直にこう明かす。
2023年11月、仮想化ソフトウェアの最大手であるVMwareが、半導体大手のブロードコムに買収された。以来、仮想化製品の大幅なリニューアルや、仮想デスクトップ等のエンドユーザーコンピューティング部門のOmnissa(オムニッサ)社への売却(参考記事)など、製品から組織に至るまで再編を行っている。
そこで起きているのが、値上げを伴う仮想化製品のラインナップ改変だ。これにより、ガートナーによればユーザー企業が負担するコストは最大12倍、平均でも2~4倍増加。リセラーやユーザー企業が声を上げる事態となっており、2024年9月にはブロードコムの日本法人が独占禁止法違反の疑いで公正取引委員会の立ち入り検査を受けた。
要求に従うか、「脱VMware」か
ガートナー シニアディレクター アナリストのトニー・ハーヴェイ氏は、買収による変化を端的に3つにまとめた(図表1)。
図表1 ブロードコムのVMware買収による変化
ガートナー シニアディレクター アナリスト トニー・ハーヴェイ氏
1つめは、課金体系だ。買収前はCPUのソケット数単位の課金だったのが、CPUのコア数とvSAN(VMwareが提供する仮想ストレージ)の容量単位の課金体系に変更された。
2つめはライセンス体系だ。従来の永続的ライセンスから、契約期間1年、3年、5年のサブスクリプションライセンスに変更された。
そして3つめが製品の選択だ。従来はメニューから自由に選べていたのが、4つのバンドルプランの契約となった。ブロードコムは仮想化プラットフォーム「vSphere」を中心に、vSAN、ITサービスを自動化する「Aria Automation」などの“全部入り”のプラン「VMWare Cloud Foundation(VCF)」を最も推奨しており、コアあたりの年間料金は3~5年契約の場合350ドルだ。4プラン中で単価は最も高いが、割引率も最大だという。一方、下位プランを選び必要最低限の構成にしようとすると、割高になり本来不要な製品も“抱き合わせ”で契約することになってしまう。
ブロードコムはなぜ、このような強引とも思える変更を進めているのか。
ガートナージャパン ディレクター アナリストの青山浩子氏によれば、ブロードコムは実はこれまでも今回のような戦略をエンタープライズ市場でとってきたという。成熟した市場を持つ企業を買い、ライセンス費用を値上げすることで売上を増やすという戦略だ。ブロードコムが近年買収したCAテクノロジーズは企業向けソフトウェア、シマンテックはセキュリティ製品で高いシェアを持っていた。そうした企業と同様、仮想化分野でトップシェアを持つVMwareは、ライセンス費用を払い続けてくれる“優良顧客”を多く抱えている。
ガートナージャパン ディレクター アナリスト 青山浩子氏
青山氏は、「ユーザーのリテラシーが試されている」と語る。ユーザー企業は、要求に従って値上がりした費用を支払いながらVMwareの運用を続けるのか、それとも自社のビジネスを成長させるために最適な手段を選択し直すのかという分岐点に立っている。