「ずっと低空飛行だったが、1年半前から『これは来ている』と手応えを感じるようになった」。こう語るのは、KDDIでM2Mを担当するソリューション事業本部ソリューション推進本部副本部長兼ソリューション2部長の住吉浩次氏だ。
通信キャリアのビジネスの中でM2Mは、携帯電話やスマートフォンの影に隠れて長らく目立たない存在だった。だが、ここにきて大型案件の引き合いが多くなっており、受注も確実に増えているという。TCA(電気通信キャリア協会)の統計でも、キャリア各社の携帯電話の契約数はこの1年間に数%の増加にとどまっているのとは対照的に、通信モジュールの契約数は20~30%と大幅に伸びている(図表1)。
図表1 通信キャリア別通信モジュール契約数の推移 |
急成長の背景には、いくつかの要因がある。まず、通信モジュールの低廉化だ。1個当たりの価格が数万円から、最近では数千円程度に下がっている(図表2)。加えて、通信技術の進化やキャリア間の競争激化により通信料金も安くなったことで、導入のハードルが下がり、諸産業分野で高額の機械でなくてもビジネスモデルが成立しやすくなった。
図表2 低廉化が進む通信モジュール |
各キャリアのM2Mビジネスの現況を見ていくとNTTドコモでは、飲料系の自動販売機やたばこの自動販売機が全体の30%以上を占め、次いでガスや水道の遠隔検針が約15%となっている。
法人事業部第二法人営業部マシンコム営業企画担当部長の高橋宏寿氏は「自販機は飲料水とタバコを合わせても400万台に満たないが、自動車は約7800万台普及している」と話す。ドコモは自動車のITS分野ではまだそれほどシェアが高くなく、今後はこの分野にポテンシャルがあると見る。
一方、KDDIが得意とするのが、セコムの「ココセコム」に代表されるホームセキュリティで、このほか自動車のITSや電力の遠隔検針もシェアが高い。特に遠隔検針は、複数の電力会社に採用されている。
ソフトバンクモバイルは、デジタルフォトフレームなどコンシューマ分野に特化しているが、ソフトバンクグループのウィルコムがPHSでエレベーター監視をはじめ幅広い分野を手がける。「将来は、双方合わせてあらゆる分野に我々のプレゼンスを拡大できるだろう」と取締役特別顧問の松本徹三氏は期待を寄せる。
SIerとは棲み分け、自営回線とは「品質」で差別化
M2Mビジネスに意欲を見せるのは通信キャリアだけではない。SIerも積極的だ。これに対して、KDDIソリューション推進本部ソリューション2部担当部長でモバイルブロードバンド1グループリーダーの菰岡真人氏は、「アプリケーションからデバイスまでキャリアが提供しようとするとSIerと一部競合することになる。パイを広げるためには、キャリアはプラットフォーム+αにとどまっているのがいいのではないか」と棲み分けていく考えを示す。
また、キャリアの競合という意味では、無線LANやZigBeeなどの自営無線を挙げることもできるだろう。これについては、コスト面では自営回線が優位であるが、「品質で差別化を図りたい」とKDDIの住吉氏は言う。
免許不要の帯域を活用する自営無線は干渉のリスクが高く、またセキュリティについても各自が対策を施さないといけない。その点、キャリアの通信回線は干渉の心配は低く、セキュリティ機能も備える。