ネットワークは人の能力や使い方に合わせて作るもの──。
5Gまでのこの常識が、6Gでは根本的に変わるかもしれない。2030年代のモバイルネットワークである6Gの性能要件や機能、それを実現するための技術の検討は「人類でないものも含めて最適化する」というこれまでにない方向性で進む可能性がある。
そんな未来を展望する1人が、NTTドコモ R&Dイノベーション本部 6Gネットワークイノベーション部 担当部長の永田聡氏だ。6Gの議論が本格化するのを前に、「ドコモは、AI・機械・ロボットのためのネットワークというコンセプトを提唱しようとしている」。
「AI前提」のネットワーク
もちろん、モバイルネットワークは人類の発展と幸福のためにあるものだが、「人類の能力を超えるAIやロボット向けに性能・機能を最適化することで、最終的に人類のために活かしていくという世界観」(同氏)を、標準化の場も含めて業界全体で共有したいという。
例えばモバイルネットワークで伝送する映像も、人間の目には8Kと16Kの区別はつかないが、AIならそこに違いを見つけ、人智の及ばない何かをあぶり出せる可能性がある。音についても、AIなら人間の聴覚で捉えられない情報を使える。対象をAIとすれば、伝送容量も遅延性能も信頼性も、人をターゲットにしたネットワークとは求められる要件は変わってくるはずだ。
現在の5Gでも、様々な産業界でAIやロボットと連携させて活用しようという取り組みが進んでいる。だが、2010年代後半の技術をベースに設計された5Gと、生成AIやロボットの社会実装が始まろうとしている現代に議論を始める6Gとの差は大きい。
その6Gは、圧倒的な量のデータを扱えるAIや、数ミリ秒単位で精密にコントロールされるロボットが社会の隅々まで浸透し、我々の生活・産業を支える2030 年のネットワークだ。この“AI・ロボットの社会実装を前提に”初めて作られるネットワークとは、どんなものになるのか。