少子高齢化の進行により、日本の労働人口は減少傾向にある。総務省の調査によると、日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに右肩下がりを続け、2050年には2021年比約29%減の5275万人にまで減少する。
この労働力不足を補う手段として、「ロボット」に熱視線が注がれている。「物流や医療業界を中心に、省人化・無人化に寄与する自動配送ロボットの需要が高まっている」と語るのは、川崎重工業 社長直轄プロジェクト本部 近未来モビリティ総括部 グローバルマーケティング&セールス部 担当部長の小倉淳史氏だ。背景には、2024年度以降、トラックドライバーや勤務医の時間外・休日労働時間に対して上限規制が適用されることがある。また、2023年4月に施行された「道路交通法の一部を改正する法律」の施行により、一定の要件を満たす自動配送ロボットが、届出制により公道を走行可能になったことも大きい。
川崎重工業 社長直轄プロジェクト本部 近未来モビリティ総括部 グローバルマーケティング&セールス部 担当部長 小倉淳史氏
川崎重工業は、自動配送ロボットのリーディングカンパニーだ。同社はサービスロボット「FORRO(フォーロ)」による自動配送サービスを提供している。
FORROの大きな特徴は、広範囲センシングによる安定走行だ。対象物にレーザー光を照射して距離の測定を行う「LiDAR」がロボット頭部に3つ搭載されており、それぞれが120度の視野角を有している。「人が多い日中の混雑時間帯に稼働させると、ロボットによっては動かなくなるケースもある。我々のロボットは、ドアの開閉が多い病院のような環境でも確実に走行できる」と小倉氏は自信を見せる。また、エレベーター内での人との相乗り可能で、「我々以外に相乗りを謳っている日系メーカーはいない」という。
なお、FORROは4G/LTEを通じて制御を行う。「専用Wi-Fiの敷設が必要なロボットも存在するが、専用Wi-Fiを大規模施設に導入しようとすると、数千万円かかるケースもある」と小倉氏は4G/LTEを利用するメリットを語る。また、Wi-Fiにはハンドオーバーの問題が付きまとう。“途切れない通信”でロボットを制御することも重要だ。
ロボットで看護師の負担軽減
自動配送ロボットを活用し、医療従事者の負担軽減および業務効率化を目指しているのが、藤田医科大学病院である。同病院は2023年7月、3台のFORROを病院内にトライアル導入した。検体や薬剤搬送など、看護師が担う配送業務をFORROに置き換えることが主な目的だという。
自動配送ロボット 病院内での稼働イメージ(出典:川崎重工業)
これまでは同病院の9階から11階までの病棟に6名の搬送係の看護師を配置していたが、1台のFORROを導入したことにより、スタッフ数を3名に半減。他3名は、別の業務に集中できるようになったという。
病院以外でのユースケースも拡大している。ホテルにおけるアメニティ配送やマンション内の宅配物運搬、商業施設内のバックヤードなどに商品や書類を届けるサービスなど、「様々な業界から要望をいただいている」(小倉氏)という。