スポーツ映像で地域振興
地域密着のCATV事業者は、地域課題の解決を存在意義としているが、スポーツを通じた地域振興はその重要な取り組みの1つだ。野球に限らず多くの競技がCATVのコンテンツになっている。CATVだけに限らず、インターネットで配信するCATV事業者も多い。
しかし、競技の中継にはコストや人手の壁があり、地域の競技大会などを十分に映像コンテンツ化できているとは言えなかった。
Double PlayなどPixellotのAIカメラは、人手を大幅に減らせるので、撮影配信コストを10分の1まで抑えることができるケースもあるという。そのため、従来はコストとの折り合いがつかなかった競技大会なども映像コンテンツ化できる。子どもや孫がスポーツをする姿を見たいという家族のニーズは強いが、例えば小中学生の競技大会なども中継しやすくなる。
磯部氏は「スポーツ振興は健康づくり」と言うが、スポーツを通じた健康増進も地域のテーマだ。見る機会の増加は、スポーツをする機会を広げることにつながるからである。スポーツが、地域ぐるみでの健康づくりの一助となり、医療費や将来的な介護費用の削減に結びつくという中長期的なアウトカムも期待されるという。
“5Gアリーナ”でレガシー残す
佐賀県では、2024年に国民スポーツ大会(SAGA2024)が開催される。そのメイン会場となるスポーツ拠点「SAGAサンライズパーク」を、佐賀市中心部にSAGA2024を契機に将来を見据えて整備しオープンしたが、ローカル5Gも活用する。
SAGAアリーナ外観
県は同パーク開業以前から、2021年にハンドボールの映像配信(県事業にNTTドコモが協力)、今年2月にはバレーボール・Vリーグの360度映像撮影(実施主体はKDDIエンジニアリング)を行うなど、ローカル5Gを利用した取り組みを進めてきた。
同パーク内に、収容人数最大8400人の「SAGAアリーナ」を新時代のエンタメアリーナとして整備し、今年5月に開業した。今年度は、翌年に迫ったSAGA2024での活用を見据え、同アリーナで大規模なローカル5Gの実証事業を行う。
ローカル5Gの実証は映像・音声配信と、ロボットによる遠隔コミュニケーションの2本柱で行われる。前者では臨場感の高い映像を撮影するために、フィールドの至近距離にカメラを設置し、その映像・音声をローカル5Gで送信する。審判やベンチスタッフなどにカメラを装着させる案もある。
映像は一般来場客が手元のスマートフォンで視聴することを想定する。テレビ放送やインターネット配信に活用することもできる。マルチアングル映像やスタッツなどの情報を見たり、遅延のない実況やルール解説を聞いたりなど、様々な角度でスポーツを楽しむことが期待される。このとき、観客はアリーナに敷設されたWi-Fi 6準拠の高密度Wi-Fiに接続する。業務利用するローカル5Gと完全に役割を分け、輻輳を防ぐ。
遠隔コミュニケーションについては、ロボットを遠隔操作して離れた場所からスムーズに参加できるかどうかを実証する。
アリーナ内には有線LAN、Wi-Fiも整備されているが、実証にローカル5Gを用いるのは高速・低遅延に加え、ケーブルレスによる移動の自由さが大きな理由だ。迫力ある映像撮影や、施設内を移動するロボットの操作には両方が不可欠だからだ。
佐賀県 政策部 政策企画監の鷲崎和徳氏は、「ローカル5Gを“普段使い”にするには、実績を積み上げることが何より大切」と力を込める。アリーナはプロスポーツチームの本拠地でもあり、また、コンサートや交流会、MICEなど幅広く活用されており、実績づくりの機会は豊富だ。
スポーツの力で地域振興を実現するには、ローカル5Gが欠かせない。