――F5ネットワークスジャパンの社長に2023年3月に就任してから、半年あまりが経過しました。
大野 F5に入社したきっかけは、アジア太平洋・中国・日本担当のシニアバイスプレジデントであるアダム・ジュッドからの直接の誘いです。私はF5に入社する前はエクストリームネットワークスの日本法人社長、その前はブロケード コミュニケーションズ システムズで営業本部長を務めていましたが、アダムはブロケード時代の上司です。
「F5はアプライアンスビジネスからソフトウェアビジネス、ネットワークベンダーからSaaSベンダーへの変革を推し進めているが、なかなか日本ではうまくいっていない。やってくれないか」と誘われたのです。
エクストリームでも直近、SaaSやソフトウェアビジネスの展開に力を入れており、ある程度の成功を収めてきました。その実績が買われたのだと思っています。
F5ネットワークスジャパン 代表執行役員社長 大野欽司氏
海外ではすでに50%超
――F5のグローバルでのビジネス状況について教えてください。
大野 今年8月に発表した2023年度第3四半期決算では、マーケットの予想を上回る売上と利益を達成するなど、F5の業績は順調に伸びています。
特筆すべきは、グローバルではソフトウェア/SaaSビジネスがしっかりと拡大していることです。売上比率50%が1つの目標になっていたのですが、すでに50%を超えました。いろいろなネットワークベンダーがソフトウェア/SaaSビジネスへの転換にチャレンジしていますが、現時点で50%以上を達成できているのは、おそらく我々くらいではないでしょうか。
ソフトウェア/SaaSビジネスの拡大は、F5の成長戦略そのものです。その実現のために近年、Volterra、NGINX(エンジンエックス)、Shape Securityと様々な企業を買収しており、その結果、ソフトウェア/SaaSビジネスの基礎ができ上がっています。
――現在、F5のソリューションはどのようなラインナップで構成されているのですか。
大野 大きく3つの柱からポートフォリオが構成されています。
1つは、昔ながらのロードバランサーを中心としたBIG-IPシリーズです。2つめは、モダンアプリケーション向けのNGINXです。
――NGINXは、コンテナやマイクロサービスとの相性にも優れたオープンソースのWebサーバーソフトウェアですね。リバースプロキシー、ロードバランサーなどの機能を提供することもでき、商用版のNGINX Plusもあります。
大野 そして3つめは、SaaSであるF5 Distributed Cloud Servicesです。これはVolterraのソリューションが中心となっており、WAAP(Web Application and API Protection)、マルチクラウドネットワーキング(MCN)、Kubernetesのアプリケーション実行基盤という大きく3つのユースケースが現状あります。
F5 Distributed Cloud Servicesを利用すると、マルチクラウドを物理的に接続しながら、その上でWAF(Webアプリケーションファイアウォール)やAPIを攻撃から守るAPIセキュリティを展開したり、コンテナやマイクロサービスベースのアプリケーション間の接続性を一元的に管理することなどができます。
――買収によってポートフォリオの拡充を急いで進めてきた背景には、どういったアプリケーション側の変化があるのでしょうか。
大野 クリティカルなアプリケーションは従来オンプレミスに展開されており、F5はこれまでオンプレミスのアプリケーション配信ソリューションを中心に提供してきました。しかし、DXが進むにつれ、アプリケーションの展開場所はかなり分散してきています。
「どこにアプリケーションはありますか」とF5が独自調査したところ、従来型のオンプレミスのデータセンターが37%、クラウドテクノロジーを用いたオンプレミスが17%、パブリッククラウドが15%、残りがエッジでした。
このように様々な場所にアプリケーションが分散することで生じる課題は管理の複雑さです。オンプレミスとクラウドそれぞれで異なるWAFを使い、その管理も別々に行う必要があるわけです。F5はそこに目を付けました。
F5が提供しようとしているのは、アプリケーションの安心・安全な配信と運用です。どこにアプリケーションがあっても一元的に管理できるプラットフォームを、SaaS型で提供していこうというのが我々の戦略です。
将来的には、BIG-IPやNGINXなど我々のポートフォリオ全体を一元的に管理できるプラットフォームへとF5 Distributed Cloud Servicesを進化させていく計画です。