――苦しい時期もあったかと思いますが、2011年度第3四半期以降、3四半期連続で黒字が続いています。いよいよ黒字転換を果たしましたね。
三田 法制度の改正など、環境整備から取り組む必要がありましたから、時間はかかりました。ただ、あまり理解されていないのは、事業モデルの基礎ができてから数えると、黒字転換まで2年もかかっていないということです。
2007年11月の総務大臣裁定を経て、NTTドコモの3G網との相互接続が完了したのは09年3月のこと。それから黒字化を達成するまで、1年と3四半期です。しかも、現在では売上の9割以上がこの相互接続モデルによるものになっており、以前のPHSなどの売上はほとんどありません。
――「ようやく」ではなく、「たった2年弱」だというわけですね。
三田 移動体通信市場に今から新規参入し、ドコモやKDDIに正面から挑むのは、僕は「クレージー」であると思っています。しかし、それでも新規参入は必要です。なぜなら新しいアイデア、特にコンピュータ業界のアイデアというものが、移動体通信市場のさらなる発展には不可欠だからです。そこで僕は「何かやらないといけない」と当時の郵政省に事業計画を提案し、日本通信を創業しました。現在では誰でも日本通信と同じようにドコモと相互接続してMVNOを開始することが可能です。僕らはこの新規参入モデルが2年以内に黒字転換できるモデルであると証明したのです。
「象にどんな服を着せても、バレエは踊れない」
―― 日本通信が移動体通信市場への新規参入の可能性を広げた一方で、ネットワークを貸し出すキャリアの側には今も不満はあります。
三田 ドコモのトップマネジメントの方は、僕らに非常に親しくしてくれています。しかしながら依然、「なぜ我々のネットワークを使わせないといけないのか」といった気持ちが現場の一部にあることも理解しています。
ぜひ分かっていただきたいのは、日本通信はネットワークの空いている部分しか使っていないということです。総務省のMVNOガイドラインは、自社でネットワークを使い切っている場合には、MVNOに売らなくていいと定めています。
――「余った帯域を使っているのだから、決して迷惑はかけていない」と。航空会社から空席を仕入れて販売する格安チケット事業者のモデルと似ていますね。
三田 そうです。ただ少し違うのは、僕らはその「空席」をディスカウントして仕入れているわけではない点です。きちんと「原価+適正利潤」をお支払いしています。ドコモにとってはすべてが利益になるわけで、おそらく日本通信以外のどの1社からも、それだけの利益は得ていないのではないでしょうか。
――とはいえ、それでもキャリアには「自分たちの市場を奪われているのではないか」という不安があるのではないですか。例えば日本通信のSIM製品のアクティブユーザー数は、今年6月末時点で16万5573に達していますが、こうした数字を見ると、そうした懸念にも一理ある気がします。
三田 僕らがターゲットにしているのは、キャリアが意識していない市場、あるいはキャリアがやりたくてもできない市場です。キャリアと競合するつもりなどありません。
通信のように巨大なインフラ投資が必要な産業では、どうしてもフレキシビリティは失われます。象にどんな服を着せても、バレエは踊れません。そこで総務省と一緒に発明したのが、重い資産を持たずに新規参入できるMVNOのモデルです。非常に強力なパワーを持ったキャリアと、フレキシビリティに優れたMVNOでは、担うべき役割が違うというのが僕の考えです。