総務省は9月12日、情報通信審議会(情通審) 通信政策特別委員会の第2回会合で通信事業者に対するヒアリングを行った。焦点はNTT法の見直しの方向性。市場環境の変化を踏まえた法律改正を求めるNTTの島田社長に対し、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルのトップたちは、NTTグループ再統合への懸念を示した。
「ドコモとの合併は考えていない」
最初にプレゼンテーションを行ったNTTの島田明社長は、冒頭でIOWN構想の推進・実現による日本の国際競争力向上への貢献を強調した。
島田氏は「今後の我が国産業の国際競争力強化に向けては、IOWN・6Gなどの推進が不可欠である一方、電話の時代に制定された規制・ルールは変わっておらず、市場の変化を踏まえた抜本的な見直しを検討すべき」と主張。そのうえで、「IOWN構想の推進・実現によりグローバルにゲームチェンジを図っていきたい。世界に先駆けて新たな情報通信インフラを構築することで、様々な産業DXを推進、我が国の国際競争力向上に貢献したい」と意欲をみせた。
NTT法の見直しをめぐっては、一部報道などで、ドコモや東西地域会社の一体化の可能性などが報じられているが、島田氏は「ドコモとの合併は全く考えていない」と明言。NTT東西についても「コストの効率化などの観点からNTT東西の一体化ができればお許しいただきたいと思うが、競争上の観点での変化は全く望んでいない」と述べ、「従来のルールに基づいてNTT東西は今後も他の事業者に公平にネットワークの提供を行っていく」と説明した。
競合事業者のNTTグループ再統合への懸念を払拭し、法改正に向けた議論を円滑に進めたい考えのようだ。
電話のユニバーサルサービスにモバイルも活用
島田氏が、見直しが必要な事項として、特に時間をかけて説明したのが「固定電話およびユニバーサルサービスの在り方」である。
「モバイルや通話アプリの普及拡大に伴い、NTT東西の固定電話(加入電話・ISDN)の利用は大幅に低下しており、数年後には1000万加入を下回る見込みで、赤字が拡大している。当社としては、固定電話を将来にわたって後続することは現実的ではないと考えており、NTT東西の固定電話をユニバーサルサービスとして継続するかについて議論が必要」だとした。
固定電話等の回線数推移
そして、電話のユニバーサルサービスの責務については「電気通信事業法で定めるブロードバンドサービスのユニバーサルサービスに統合することも可能ではないか」という見方を示した。
さらに島田氏は、「光を全世帯に敷設することは現実的ではない」として、「国民に広く普及しているモバイルにより実現し、より効率的にかつ利便性の高いユニバーサルサービスを目指していくべき」と述べた。この場合、「MNO間でのローミングや設備シェアリングなど、事業者全体で効率的にカバレッジを拡大・確保する仕組み」の検討なども必要になるという。
利用が大幅に減少している公衆電話については、海外の事例なども参考に、今後もユニバーサルサービスの対象としていくかを検討することを求めた。
島田氏は、NTT法の「研究開発の推進・普及責務」の見直しも要望した。
「IOWNなどを海外のベンダー・メーカーなどのパートナー企業と連携して展開する場合、パートナーから、研究開発の成果の独占的な開示を求められることが考えられる。しかし、現状では公平な開示義務があるため、要請に対応できない可能性がある。開示義務に基づいて海外の政府機関や海外企業(その子会社)から開示請求がなされた場合、経済安全保障上の懸念も生じる」という。