今やあらゆる産業界に広がるAI活用。通信業界もその例に漏れず、世界中の通信事業者がビジネス変革に向けてAIを活用し始めている。NVIDIAが通信事業者およびそのハードウェアとソフトウェアのサプライヤーを対象に行った調査では、実に95%がAIを利用していると回答した(2022年11月から2023年1月に実施)。
その多くは初期段階の利用レベルにあるが、AIへの期待は高い。「AIは自社の成功にとって重要である」とした回答者は65%と、全体の3分の2を占める。
図表1 AIによる成功への関心と期待
これは、通信事業者のビジネスが大きな転換点にあることと無縁ではない。スマートフォンもブロードバンド回線も普及はすでに一巡。単純な速度競争や価格競争による差別化は限界に達した。求められるのは次の差別化戦略であり、通信事業の収益性を高めるための新たな道を切り拓かねばならない。
AT&Tが先鞭、7領域でAI活用
その方向性はいくつか考えられる。
1つは、決済サービス、ゲームやビデオ等のコンテンツ提供といった付帯サービスだ。通信料収益の伸びが鈍化するなか、サブスクリプション型の付帯サービスを新たな収益源とする取り組みが広がっている。また、B2B向けの5Gユースケース開拓も有望な新規ビジネス領域だ。
もう1つが、通信サービスの品質確保・向上だ。モバイルネットワークは社会インフラと化し、ユーザーはその品質に大きな信頼を寄せている。「スマホが使えない」事態は、大ニュースとして伝えられる状況になった。
そのため、通信事業者はこれまで以上に品質と信頼性に優れたネットワークを、運用管理コストを増加させないかたちで実現し、より効率よくサービス品質を向上させることが求められている。それには、ビジネスオペレーションの効率化やコスト削減、そして通信サービスの高付加価値化が必要だ。
NVIDIA Global Head of Business Development -Telco Operations ライラック イラン(Lilac Ilan)氏
ビジネス活動全般を効率化することで競争力を高めるこのオペレーショナルエクセレンスを推進するに当たって、AIは強力なエンジンとなる。通信事業者のAI活用をサポートするNVIDIA Global Head of Business Development -Telco Operationsのライラック イラン氏は「世界中の通信事業者は、ネットワークの最適化、顧客サービスの向上、フィールドフォース管理の革新に重点を置き、AIを活用して業務を変革している」と話す。
この取り組みで先行する通信事業者の1つが、米国最大手のAT&Tだ。同社はNVIDIAが開催した技術カンファレンス「NVIDIA GTC 2022 Fall」「同2023 March」で、AI活用について説明した。その内容を元に、AT&Tの取り組みを紹介しよう。