NTTは2023年6月14日、ALS(筋委縮性側索硬化症)の当事者団体であるWITH ALSおよびDentsu Lab Tokyoと連携し、ALS患者の豊かなコミュニケーションに向けた取り組みを開始したと発表した。この取り組みでは、患者をALSと共に生きている「ALS共生者」と捉える。
ALSは進行すると、認知機能は正常なまま全身の筋力が徐々に機能を失い、人工呼吸器を装着することになる。人工呼吸器によって、本来の生を全うできると言われているが、その一方で人工呼吸器の装着の気管切開手術によって声を失ってしまうことが多い。音声言語と身体表現によるコミュニケーション手段を失うため、社会との断絶を恐れ、生きる希望を失う人も少なくないという。
NTTは病気や障害の当事者だけでなく、サポートする人びとも含めて人間中心に課題を解決していくProject Humanityを推進している。この取り組みはその一環として、ALS進行による身体の制約を解放するだけでなく、会話をスムーズに、表現豊かに他者と交流し合える世界の実現を目指す。
これまで、音声合成技術によって本人らしい声の合成音声が実現した。2022年には数分程度の録画映像の音声から、そして2023年にはさらに少ない数秒程度の録画や録音の音声から、複数のALS共生者の合成音声を作成することに成功したという。
今後は、ALS共生者のより豊かなコミュニケーションのため、非言語表現の拡張に取り組む予定だ。NTTの生体情報を基にした運動能力転写技術を発展させ、メタバース空間におけるALS共生者の意思でアバターの自由な操作と、リアル空間における自身の運動の再現を目指す。前者では、筋電センサー、後者では身体への筋電気刺激を利用する。
筋電センサーを活用したアバター操作
筋電気刺激を活用した非言語コミュニケーション
また、オリィ研究所の意思伝達装置「OriHime eye+Switch」による、スイッチや視線入力に対応した分身ロボットOriHimeを操作したコミュニケーションの拡張(参考記事:NTT東、ローカル5Gを用いたカフェにおける遠隔ロボット操作の実証実験の成果を公表|BUSINESS NETWORK)など、ALS共生者に向けて提供されている技術との連携も検討していくとしている。