現在のインターネットを支える最重要プロトコルの1つであるHTTP。これを補完するWeb3時代のプロトコル「IPFS」への関心が高まっている。
IPFSは、Inter Planetary File Systemの略で、日本語に訳すと惑星間ファイルシステムとなる。セコイア・キャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツといった米国を代表する名立たるベンチャーキャピタルが出資する米Protocol Labsが開発をリードしている。
Web3は、ブロックチェーンを活用した分散型の新しいインターネットの形である。GAFAMに代表される一部の限られたプラットフォーマーにデータが集中する従来のインターネットと異なり、参加者同士が直接、様々なデータや価値をやりとりできる非中央主権型の世界であることが最大の特徴だ。
ただ現在のWeb3は実のところ、ライバルであるはずの「プラットフォーマーに依存して作られている」と指摘するのは、IPFS関連ビジネスを手掛けるスタートアップ企業、NonEntropy Japanの代表取締役CEOである西村拓生氏である。
(左から)NonEntropy Japan 代表取締役CEO 西村拓生氏、取締役CTO 笠原直樹氏。同社の設立は2020年12月。Filecoinがローンチした同じ年に設立された
「ブロックチェーンには大きなデータの保存機能が存在せず、そのため現在のWeb3のサービスの多くは、AWSなどプラットフォーマーのクラウド上で実現されている。ベースの部分がまったく分散型になっていないのがWeb3の現状だ」(西村氏)
そこで注目されているのがIPFSと、このIPFSを活用したWeb3のプロジェクト「Filecoin」である。
プラットフォーマーに過度にデータが集中しているWeb2.0の課題を解決するとともに、インターネットを支える通信ネットワークにも大きな影響を変えていくポテンシャルを秘めている。
コンテンツ指向のIPFS
現在のインターネットで主に使われているHTTPは、「ロケーション指向」のプロトコルだ。Aというコンテンツを閲覧・利用する際、Aを提供しているWebサーバーの住所となるURLを指定してアクセスする。特定のWebサーバーがコンテンツを提供する形態であり、一部のプラットフォーマーにデータが集中していくなか、HTTPの世界は、中央集権型の色彩をどんどん強めてきた。
一方、IPFSは、「コンテンツ指向」の分散型ネットワークである。
IPFSでは、URLという住所ではなく、コンテンツID(CID:ContentIdentifier)を利用して、目的のコンテンツを閲覧・利用する。
CIDとして用いられるのは、そのコンテンツのハッシュ値だ。要約関数とも呼ばれるハッシュ関数では、入力した任意の値から短い固定長のユニークなハッシュ値(要約値)を得ることができる。同一の入力値であればハッシュ値も同一なため、同じコンテンツであれば、別の場所にあってもCIDは同一となる。
IPFSでは、このCIDを使って目的のコンテンツを見つけるわけだが、ファイルは分割されたうえで複数のノードに分散保存されている。そして、CIDを指定すると、近くのノードからファイルの断片を集めて復号するという仕組みだ。