IDC Japanは2022年9月28日に国内SD-WAN市場予測を発表した。それによれば、2021年の国内SD-WAN市場は、前年から46.5%成長して市場規模は84億2600万円。今後も成長を続け、2026年には190億9000万円と予測している(図表1)。
図表1 国内SD-WAN市場予測
SD-WANにまず期待されている機能は、トラフィック増を背景としたローカルブレイクアウトである。
従来の企業WANでは、インターネットやクラウドなどの外部にアクセスする場合、本社/データセンター(DC)に設置されたゲートウェイ装置を経由させてきた。外部との通信を管理し、セキュリティも担保するためだ。しかしトラフィックが年々増加する中で、本社/DCへアクセスするための閉域網の帯域が逼迫している(図表2)。
図表2 企業WANの課題と主な要件
そこで、各拠点から直接インターネットやクラウドにアクセスするローカルブレイクアウトを実現するSD-WANの採用が加速している。「SD-WANには様々な機能があるが、ローカルブレイクアウトを主な目的とした導入は、中小企業やGIGAスクール構想でトラフィックの増加した小中学校のネットワークなどを中心に拡大している」とIDC Japan コミュニケーションズ リサーチマネージャーの山下頼行氏は話す。
ブレイクアウトを超えて
SD-WAN市場の現状について、「大企業向けと中小企業向けに市場が二極化している」と山下氏は説明する。
大企業においては、ネットワーク再設計の動きが加速している。「大企業ではCOVID-19の感染拡大をきっかけに在宅勤務が急速に広まったが、その動きがようやく落ち着いてきた。今後の見通しが得られた中で、全体のネットワークを再設計しようと考えている企業が増えている。SD-WANの高度なトラフィック管理機能や可視化機能により、複雑化したネットワークの運用負担やコストの削減を期待している」と山下氏は語る。
SD-WANをすでに導入している大企業は多い。しかし、SD-WAN市場の黎明期に出てきた製品を利用している企業からは、ある不満が出てきているという。「ブレイクアウトを実現したものの、結局アプリケーションの振り分けがきちんとできていないので、効果が出ていない」とシスコシステムズ プロダクト・セールス・スペシャリストの次藤則兼氏は明かす。
市場初期のSD-WANの場合、アプリケーションの識別およびそのコントロール機能が不十分なことも多い。例えば「Microsoft 365宛ての通信はインターネット回線、それ以外は閉域網でデータセンターへ行く」といった設定を予めしておき、その通りにしか運用ができない。
だが、実際のWAN運用において、トラフィック量は日ごと、時間ごとに変動する。「コスト削減効果を出すには、ベストエフォートのインターネット回線を使うことになるが、ここにトラフィックが集中すると速度は出ない。混雑時には経路を切り替えるべきだが、SD-WANの機器によっては切り替えるためにコンフィグレーションを書き換えて全展開する作業が必要になる。そのため安易に切り替えられず、速度の低下やユーザー体験(UX)の低下を招いている。切り替えを柔軟にできてこそ帯域を有効活用でき、コスト削減効果も期待できる。そのため、回線種別を問わずに経路をアプリケーションごとに柔軟に振り分け可能なSD-WANが求められている」と次藤氏は指摘する。