「携帯電話を掛けながらのATM操作はご遠慮ください」──。このようなアナウンスを耳にすることは珍しくなくなった。各金融機関は振り込め詐欺の阻止に腐心しているが、ここでも威力を発揮しているのがAIカメラだ。
ATMコーナーに設置されたカメラが人の動きを捉え、ATMに手を伸ばしている行動と、携帯電話を耳に当てる行動の2つをAIが検知すると、アナウンスで注意を促す。オプティムが佐賀銀行で始めた取り組みは2019年からの実証実験を経て、2020年に本格導入されている。このシステムは全国の金融機関や警察などから引き合いがあるという。
また、AIカメラの文字認識機能は自動車のナンバープレート認識に威力を発揮している。ネットワークカメラで国内最大シェアを占めるi-PROは、赤外線LEDを搭載したAIネットワークカメラとアプリケーションを活用したナンバー認識システムを提供している。映像監視と車両管理を同一システムで行うことで業務効率化に貢献。駐車場のオペレーションや機器コストを軽減するだけではなく、不審車両の検知も可能だ。
このように、ネットワークカメラでのAI活用が広がっている。矢野経済研究所の調査によれば、2021年の監視カメラシステムの世界市場は3兆3600億円の規模で、これは前年比13.1%の成長となる。コロナ禍での一時の需要減を脱し、市場が活気を取り戻しているが、その原動力となっているのがAI機能を搭載したネットワークカメラや、ネットワークカメラの映像をAIで解析するソリューションだ。カメラ自体は低価格化が進み、いかに高度な解析ができるかが製品選択のカギとなってきている。
数10種類の解析メニュー
AI画像解析サービス「OPTiM AI Camera」シリーズを提供しているオプティムによれば、映像データの利活用は「見える」「分かる」「対処する」の3つに分けられるという(図表1)。複数のネットワークカメラの映像を一元確認できるインターフェース、映像から被写体となる空間の利用状況や人数の統計状況の把握、消費者・関係者への通知や外部システムへの連携を実装することにより、AIカメラの有効活用が可能になる。
図表1 AIによる映像データ利活用イメージ(OPTiM AI Camera)
オプティムのAI画像解析サービスの特徴はその解析メニューの豊富さにある。「OPTiM AI Camera Enterprise」では、数10種類の画像機能(オプション含む)を用意する(図表2)。侵入検出などの防犯目的に留まらず、入店者数予測や混雑分析など、小売店舗向けの解析機能を標準メニューとしてラインナップしている。学習済みモデルがプリセットされているため、AIエンジンを新たに作り込んだりチューニングしたりする必要がない。その結果、低コストかつスピーディーな提供が実現している。
図表2 「OPTiM AI Camera Enterprise」で利用可能な画像解析機能
AIによる解析結果をさらに有効活用するため、既存システムと連携させたいというニーズも拡大している。「システム連携させながら、より効率的に使いたいというようなDX絡みの話が非常に増えてきている」とオプティムDX事業部 AI・IoTソリューションユニット マネージャーの鈴木氏は話す。AIカメラと外部システムをAPI連携しデータの受け渡しを行い、例えば放送システムや空調管理システムと連携することも可能だという(図表3)。
図表3 AIカメラと外部アプリとのAPI連携イメージ(OPTiM AI Camera)
パナソニックのセキュリティカメラ部門が独立して誕生したi-PROは、画像センシング専業会社としてAIカメラの開発に取り組んでいる。侵入検知、滞留検知、方向検知など、防犯機能に特に強みを持つ。人が特定エリアに侵入した際に検知することはもちろん、自動車が駐車禁止エリアに長時間滞留したり、出口から人が逆進入したりすることも検知できる。コロナ禍で需要が発生したマスク着用検知や、混雑検知も備える。人物や顔を高精度に検知できるため、それらに自動的にモザイク処理するプライバシーに配慮した運用も可能だ。