――「地域の未来を支えるソーシャルイノベーション企業」という目標を2022年6月の社長就任時に掲げました。ここ数年、NTT東日本は、地域のためのICTパートナーへの転換を進めてきましたが、これまでの成果をベースに、次はどこを目指すのですか。
澁谷 現在、光ファイバーの世帯カバー率は99%くらいあります。光のブロードバンドがこれほど整備されている国は、世界を見渡しても数少ないでしょう。
このように光ファイバーがほぼ行き渡るなか、我々は2015年に光サービス卸をスタートさせました。光回線の直販および代理店販売を縮小し、この7年間、次の事業を模索してきたのです。
その初期にあたる前々社長の山村の時代は、地域の中小企業にもっと貢献しようと、ビジネスホン販売を発展させる形で、セキュリティやWi-Fi等の高付加価値サービスに力を入れました。
そして前社長の井上の時代に、農業、アート、eスポーツなどの新会社を次々と約10社も立ち上げながら、少子高齢化や後継者不足といった地域の課題解決にもっと貢献しようと挑み始めたのです。
お陰様で今、対応が追い付かないほどの多くの引き合いを頂戴していますが、こうして地域のお客様に向き合っていますと、「もっと顧客の数を増やしたい」「若者に来てほしい」「世界にマーケットを広げたい」といった声を強く頂きます。つまり、課題解決にとどまらず、価値創造を手伝ってほしいというニーズです。
それで掲げたのが「地域の未来を支えるソーシャルイノベーション企業」という目標でした。次のフェーズでは、サステナブルな循環型の地域経済の実現に取り組みます。
NTT東日本 代表取締役社長 社長執行役員 澁谷直樹氏
――どういうことですか。
澁谷 サステナブルというと環境保護だけがイメージされがちですが、地域のお祭りや文化、産業、特産物など、地域の特色が続いてこそのサステナブルだと我々は考えています。若い人がデジタルの力を使って地域の文化活動に参加するのもサステナブルですし、観光客が増えて民芸品などの販売が伸びることもサステナブルです。
ここで大事なのは、稼げないことには、人を呼び込む原動力になり切れないということです。サステナブルであるためには、お金のサーキュレーションも必要です。
例えば我々は、葛飾北斎が晩年に描いた長野県小布施町の岩松院本堂の天井絵「八方睨み大鳳凰図」をデジタル化し、遠隔でも鑑賞可能にしましたが、「実物を見たい」と岩松院の来訪者はコロナ前より増えたのですね。このようにお金の循環を生み出すことを目指しています。
地域に人とお金をもっと呼び込む仕組みをどう作っていくかが、次のチャレンジです。
レベニューシェアで持続的に
――地域の価値創造に貢献しながら、NTT東日本としては、どのように収益化していく考えですか。
澁谷 レベニューシェアでいいと思っています。「対価をいくら下さい」というモデルでは持続が難しいからです。私たちがデジタルの力でお手伝いすることで生産性が上がり、ブランド力が上がり、流通先が拡大し、それで増えた収益をシェアしていただく。ビジネスモデルもサステナブルでなければいけません。
――課題は何でしょうか。
澁谷 今の一番の課題は、あまりに案件が多く、その差配をどうしていくかなのです。
地域のお客様に対して、我々はハイブリッドチームで対応しています。フロントで営業を担当するのは今まで通りの法人営業部門です。営業担当者が例えば自治体の方と話し合い、「次世代農業と再生エネルギーとスマートストアを組み合わせましょう」となると、それらを担当するグループ会社の専門家とネットワークの専門家などで構成されるハイブリッドチームを編成するのですが、そのリソース配置が十分に回り切れていません。地域や案件ごとにいろいろとニーズが異なるのが理由の1つで、ハイブリッドチームをどう編成し、価値創造をどう推進していくかが今後のカギだと捉えています。
これまでのインキュベーションのフェーズはかなりうまくいきました。今からのアクセラレーションのフェーズでどうスケールさせていくかが、私の重要なミッションです。
――デジタル人材の育成もカギの1つですか。
澁谷 そうです。1000人くらいまで現在来ていますが、全く足りていません。そこで2024年までに一気に5000人のデジタル人材を育成する計画です。先日その育成のための教育カリキュラムの受講者を社内募集しましたが、定員の10倍近くの凄い数の応募がありました。
もちろん自分たちだけでは、すべてをやり切れない部分もありますので、社外の方とも連携します。例えば、農業を起点にドローンの社内実装を推進するNTT e-Drone Technologyはオプティム、WorldLink & Companyと、SaaSで働く環境のクラウド化をサポートするネクストモードはクラスメソッドと組んで会社を作りました。