デジタルピッキングから実用化
「5.7GHz帯を使う最大のメリットは、出力が大きいこと」。こう話すのは、スペースパワーテクノロジーズ 代表取締役の古川実氏だ。
スペースパワーテクノロジーズ 代表取締役 古川実氏
空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムに割り当てられている周波数の送信出力は、それぞれの周波数帯における利用シーンから受信側で必要な電力を求め、その値から送信出力を逆算して設定しており、920MHz帯は1W、2.4GHz帯は15W、5.7GHz帯は32Wと5.7GHz帯が最も大きい。
加えて、スペースパワーテクノロジーズでは従来の送電・受電用アンテナの4素子の特性を1素子で実現する特許技術を開発、POWER GATEは高効率で電波を送ることができる。また、受電器側にはレクテナ(電波を直流エネルギーに変換するデバイス)を採用するとともに、変換効率を高める独自技術により、他社のシステムと比べて約6倍以上の受電電力を実現するという。
アンテナサイズは周波数の2乗に反比例し、920MHz帯の約6倍の周波数である5.7GHz帯では同サイズは約1/36になるので、POWER GATEも送電器が30cm角、受電器が10cm角と小型化を実現している(図表2)。その一方、送電器と受電器の間が約1mの距離であれば、送信出力32Wに対し1つの受電アンテナ素子で3Wの給電を行うことが可能だ。5.7GHz帯は920MHz帯より出力差で32倍、アンテナによる電波の集約度で34倍上回っており、920MHz帯を使ったシステムの約1000倍の高電力を生み出すことができる。「920MHz帯は広範囲に少量の給電を行う用途に適するのに対し、5.7GHz帯は数日~1週間に1度のペースで電池交換や充電が必要になる高出力用途にニーズがあると考えている」と古川氏は話す。
図表2 「POWER GATE」のイメージ
そうしたユースケースの一例が、倉庫内のデジタルピッキングシステムへの給電だ。
デジタルピッキングシステムは、基幹システムと棚に設置された表示器が連動し、出荷指示リストに合わせて作業者へ表示器が指示を出す仕組みだが、大規模になると表示器の数が多くなり、有線では配線が煩雑になる。一方、無線の場合、現状は電源供給に2次電池が使われているが、2日に1度という高い頻度で充電作業が発生する。このため、充電作業の無人化・自動化に対する強いニーズがある。
スペースパワーテクノロジーズでは、電気通信大学発のベンチャーB-STORMとデジタルピッキングシステム向けのワイヤレス給電システムを共同開発しており、年度内に1回目の実証を行う計画だ。「様々なユースケースの中で最も早く実用化が期待できる」(古川氏)という。
また、工作機加工ツールのセンシングへの活用を工作機械メーカーなどと検討している。
工作機械で加工を行っている途中、ドリルが破損すると製造ラインも止まってしまい損失が大きい。その対策として、加速度センサーで破損前の異常振動を検知し、事前に交換する方法があるが、加工位置近傍でのセンシングは配線が難しく、電池では長期にわたり十分な電力を供給できない。そこでワイヤレスで給電し、予知保全の高度化を図ろうとしている。
ワイヤレス給電技術は、これまで国内外の多くの企業が開発に取り組んできたが、安全性が実用化へのハードルとなってきた。
特に出力が大きい5.7GHz帯は人体への影響が懸念され、それが第1ステップで無人環境に限定された理由ともなっている。
これに対し、POWER GATEは京都大学・篠原真毅研究室との共同研究により、画像解析技術を使って人体を検知すると、人体に当たらないよう最適なビームフォーミングを行える仕組みを取り入れるなど、今後の有人エリア利用へ向けた安全性の課題もクリアしているという。