一気に50Gを目指すか、それとも25Gで刻むか──。
主にFTTHで使われているPassive Optical Network(PON)システムにおいて現在世界で主流となっているのが、ITU-Tが2016年に策定した10G PONの国際標準規格「XGS-PON」だ。この次世代規格をめぐり、チップ/システムベンダーや通信事業者には、25G PONと50G PONの2つの選択肢が提示されている。
ITU-Tを飛び出した25G PON
“10Gの次”に関する議論はITU-Tで2016年に始まり、2018年には一旦、決着が着いた。
ITU-Tが出した結論は50G PONだ。2018年2月に「G.9804シリーズ」として技術開発と標準化作業がスタートし、2021年9月に最初の技術標準が承認された。PONシステムを開発するノキアの日本法人、ノキアソリューションズ&ネットワークス 固定アクセスネットワーク事業部 ソリューションマネージャーの原孝成氏は、「25Gで一度刻むグループと、50Gを目指すグループに大きく分かれたが、10Gの2.5倍では次世代にふさわしくないということで、50Gで合意された」と当時を振り返る。
ノキアソリューションズ&ネットワークス 固定アクセス ネットワーク事業部
ソリューションマネージャー 原孝成氏
ただ、話はここで終わらない。
ITU-Tで50G PONの標準化が進められるのと並行して、25Gを支持するグループが業界団体「25GS -PON MSA Group」を設立。2020年10月に25GS-PON※1のv1.0仕様を、2021年10月にv2.0仕様を公開したのだ(図表1)。参画企業は現時点で54社。住友エレクトリックやNTTエレクトロニクスといった光コンポーネントのメーカー、Accton TechnologyやCiena、Tibit等のシステムベンダー、そしてAT&Tや中華電信(台)、Telus(加)等の通信事業者も9社が名を連ねる。
注1:25GS-PON
25GS-PON MSAによれば、名称内の「S」は対称性を表し、上り/下りともに25Gbpsを実現する規格の意味。10G規格についても、対称型のXGS-PONと、上り2.5Gbpsの「XG-PON」の2種類がある
図表1 50G-PON(G.9804 Series)と25GS-PON標準化の動向
ノキアは25GS-PONの商用システムもすでに開発しており、2021年から欧米の通信事業者が次々とトライアルを実施している(図表2)。ベルギーのProximusは2021年5月に商用ネットワークに導入。AT&Tも2022年6月、実稼働ネットワークに25GS-PONを導入し、上り/下り20Gbps※2の通信に成功したと発表している。
注2:上り/下り20Gbps
ITU-Tで規格化された「G-PON」技術は、誤り訂正符号化(FEC)のオーバーヘッドが大きく、8割程度の帯域しかデータ通信に使えない。XGSPONでは実質的に約8Gbps、技術ベースが共通している25GS-PONも、最大速度は約20Gbpsとなる
図表2 25GS-PONの主なトライアル、商用化の例
このように、国際標準化団体とは別に業界団体がデファクトスタンダードを作る例は通信業界では珍しくない。例えば、光トランシーバーのSFPにもIEEE規格とMSA(multi-sourceagreement)規格があり、用途に応じて使い分けられている。
25GS-PON MSAのメンバーはノキアをはじめ、50G PONの標準化にも関わっている。標準化の本流が50GPONであることは変わらないが、25Gで早めに広帯域化することにメリットを見出すベンダー/通信事業者が増えてきているのが現状だ。