NTTとNTTドコモ、NECは2022年10月31日、28GHz帯を用いた分散MIMOにおいて、エリア内の無線伝搬状況や移動端末の位置等の環境変化に応じて基地局の分散アンテナを動的に切り替える技術の実証実験に世界で初めて成功したと発表した。
5Gで使われる28GHz帯は遮蔽物による電波伝搬の減衰が大きく、人が密集するショッピングモールや、多くの設備が稼働する工場のような環境では遮蔽物対策が重要になる。1つの基地局から多数のアンテナを分散配置し、移動端末に対して複数方向から、つまり遮蔽物を避けるかたちで無線伝送する高周波数帯分散MIMOは、その有力な解決手段の1つになる。
ただし、高周波数帯は、所要の無線伝送距離を確保するためにはアンテナの電波放射を特定方向に集中させる必要があるため、環境に応じて分散アンテナを選択する動的な無線伝送制御が必要だ。低周波数帯では無線品質の変動が緩やかだが、高周波数帯では無線品質が急激に変動するため、移動端末が柱などで遮蔽される位置に移動した場合に切断が起きることがある。切断が起きてから、別の分散アンテナが無線品質情報を取得するまでの間はこの切断状態を把握できず、その間は適切な分散アンテナを選択できない。
今回、実証を行った技術は、NECの分散アンテナを活用して分散MIMOシステム自らが移動端末の位置を予測し、適切な分散アンテナを選択するというものだ。エリア内の各位置で各分散アンテナの無線品質を持続的に測定し、最適な分散アンテナを学習。運用時には分散MIMOシステム自身が、各分散アンテナの無線品質を随時観測し、機械学習により移動端末の位置を推定する。
さらに、過去の移動端末の推定位置から未来の移動を予測し、次の無線品質情報を取得するまでの移動端末位置と最適な分散アンテナを予測する。これにより、適切な分散アンテナを選択し、無線伝送を継続できるようになるという。
実験エリアと実験系の概観
実証実験は、25×15×3.5mの広さのエリア内に柱が4本存在する実験室(上図)で、5G NR 28GHz帯の物理仕様に準拠した実験機(周波数帯28GHz、信号帯域100MHz、サブキャリア間隔60kHzのOFDM方式)で行った。分散アンテナは#0~#5の位置に合計6本設置し、図中の経路Y上に移動端末を台車で移動させて、分散アンテナごとの無線品質情報を取得し、伝送性能を評価した。
無線品質情報の取得間隔が20msで、移動端末が自転車走行速度(15km/h)程度で移動した場合、従来方式では、柱で遮蔽される位置で受信強度が平均13dB程度低下した。
実験結果(従来方式と本技術適用時の各々の相対受信強度特性)
一方、本技術による移動予測に基づいて分散アンテナを選択した場合は、同位置における受信強度の低下は従来に比べて平均8dB程度改善し、5dB程度に留まった(上図)。高周波数帯分散MIMOで懸念される瞬断の回避が可能であることが確認されたことで、移動時でも安定した、高周波数帯を用いた高速大容量通信の実現が期待できるという。
5Gの次世代規格であるBeyond 5G/6Gでは、28GHz帯よりも周波数の高いミリ波やサブテラヘルツ帯の活用も想定されていることから、NTTとNECでは今後、28GHz帯よりもさらに高い周波数帯での実証や人体など遮蔽物が変動する環境など、分散MIMOの適用周波数とユースケースの拡大に向けて実証実験を進めていくとしている。