レンドリース・ジャパンが、携帯電話基地局のインフラシェアリング事業を強化する。
子会社Tower Pods(タワーポッズ)を通じて5G向け通信鉄塔約50基を新たに建設し、複数の通信事業者に貸し出す計画だ。
「採算が合わないなどの理由から、基地局がまだ建設されていないが、複数の通信事業者のニーズがある場所に塔体を建設したい」。レンドリース・ジャパン テレコム投資開発部長の梶井健二氏はこう話す。
レンドリース・ジャパン テレコム投資開発部長 梶井健二氏
豪シドニーに本社を置くレンドリースは、不動産プロジェクトの投資や開発、建設、アセットマネジメントなどをグローバルに展開する企業グループ。その日本法人であるレンドリース・ジャパンは、1988年より事業を開始した。
当初はゼネコンという位置付けで公共工事を含む建設工事を請け負っていたが、やがてプロジェクトマネジメント(PM)やコンストラクションマネジメント(CM)を日本の建設業界に普及させるとともに、その業務を拡大してきた。ちなみに、PMとCMの違いだが、PMはプロジェクトの構想・企画、計画、設計、工事発注、施工、引き渡しの各段階でコストやスケジュール、品質、情報の観点から関係者の調整・管理業務を実施し、工期や予算の範囲内に収めることを目的とする。これに対し、CMは計画・設計の段階から設計や施工について技術的な観点からマネジメントを展開するものだ。
2001年には国内テレコム事業に参入。携帯電話の基地局建設工事にPM手法を導入し、これまで20万局以上の基地局建設に携わってきた。現在、テレコム事業は日本法人の中核となっており、基地局建設のPM業務に関わるスタッフは約400名、レンドリース・ジャパンの全社員の約9割を占める。
総務省のガイドラインが転機に
インフラシェアリングについては、まず2013年に米国でタワーカンパニーの事業に携わった後、2016年から日本で事業を開始した。
5Gに割り当てられている高い周波数帯は障害物に弱く、LTEまでと比べてより多くの基地局を密に設置する必要がある。通信事業者のインフラ投資の負荷も大きくなることから、「5G時代に向けて、効率的なエリア展開方法として一定のニーズが生まれると考えた」と梶井氏は説明する。
しかし、当時はまだエリアが通信事業者の競争軸の1つであり、各社が基地局展開でしのぎを削っていた。インフラシェアリングという概念も一般的ではなかった。「マーケットのインフラシェアリング事業に対する関心も低く、通信事業者との協業可能性について地道に模索してきた」(梶井氏)と振り返る。
転機となったのが、2018年の総務省「移動通信分野におけるインフラシェアリングに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン」だ。
原則や関係法令の適用条件などを示し、鉄塔やアンテナ、基地局装置の各領域でインフラシェアリングを促したガイドラインが交付されたことで、広く認知され関心を集めるようになった。さらに、今年3月に総務省が公表した「デジタル田園都市国家インフラ整備計画」の中で、5G人口カバー率を2030年度末までに99%(5G基地局60万局)という「世界最高水準の5G環境の実現」に向けた施策の1つとしてインフラシェアリングの推進を掲げており、インフラシェアリング事業者が補助金の受給対象に加わったことも追い風となっているという。
こうした環境変化を受けて、レンドリース・ジャパンでは「ようやく機が熟してきた」と捉えている。