「セルラー通信やLPWAと同じように、衛星通信も組み合わせてIoTビジネスを作るための土台を提供したい」
2022年7月に「衛星メッセージングサービス」の試験運用を開始したソラコム。テクノロジー・エバンジェリストを務める松下享平氏は、狙いについてそう語る。
ソラコム テクノロジー・エバンジェリスト 松下享平氏
同サービスは、AstrocastとSwarmTechnologies(以下、Swarm)という2社の衛星通信プロバイダーとのパートナーシップによって提供するものだ。衛星通信によるメッセージ送受信機能を、IoTプラットフォーム「SORACOM」に統合(図表1)。これまで提供してきたセルラー通信やLPWA等と同様に、衛星通信を使ったデータ送受信を可能にする。検証目的(テクノロジープレビュー)での利用受付を開始しており、ユーザーとともにユースケース開拓に挑む。
図表1 衛星メッセージングサービスの提供イメージ
「衛星通信を民主化する」
SORACOMの衛星メッセージングサービスは70の国と地域および公海上で利用可能だ。
現時点では日本はサポートエリア外だが、利用者の要望を基に順次エリアを増やしていきたいと意気込んでいる。ソラコムの契約回線のうち国内限定のSIMは1割ほど。400万を超えるIoT契約回線の89%が、グローバル対応の「SORACOM IoT SIM」だ。衛星通信の統合は、公海上や山岳地帯など地上ネットワークのカバレッジがない領域へIoTを広げるための大きな一歩となる。
ソラコムは2015年にセルラー通信を活用したIoTプラットフォーム事業を開始。一般的にはユーザー側で個別に調達し、インテグレーションしてIoTシステムとして組み上げなければならないIoTデバイス、通信回線、クラウド/アプリケーションを自由に組み合わせられるプラットフォームとして拡充してきた。
通信回線については、2017年にLPWA規格の1つであるSigfoxを加え、2021年からは企業のLANやWi-Fi経由でSORACOMとVPN接続できる「SORACOM Arc」も提供している。単一のIoTプラットフォーム上で、用途・目的に応じてセルラー、LPWA、LAN/Wi-Fiを選択可能だ。
こうして拡張してきた選択肢に今回、衛星通信が加わる(図表2)。
図表2 SORACOMが実現する組み合わせの自由“Agnostic”
特に期待されるのが、地球上の7割を占める海洋でのIoTビジネスの開拓だ。船舶と陸上とのコミュニケーションにはこれまでも衛星通信が使われてきたが、「プロバイダーごとに契約や通信/デバイスの仕様、通信エリアや時間が異なるため、調達とインテグレーションに手間がかかっていた。これを民主化したい」(松下氏)。
2社の衛星通信サービスの性能は図表3の通りで、送受信できるメッセージ長は最大160/200バイト。AstrocastとSwarmの独自プロトコルで低頻度のメッセージ送信が可能と、利用イメージはLPWAに近い。カバレッジを広げるために、他の事業者との提携も検討していくという。