デジタルの力によって企業活動や社会生活を高度化しようとする取り組みのなかで今、焦点が当たっているのが「地方」や「分散」といったキーワードだ。
なかでも象徴的なのが、日本政府が推進する「デジタル田園都市国家構想(デジ田)」、そして世界的な潮流である「Web3(Web3.0)」である。
デジ田は、地方からデジタルの実装を進めることで社会変革を成し遂げようとする取り組みだ。その基盤づくりとして5G/光ネットワークの普及促進と、地方データセンターの整備が始まる(図表1)。
図表1 デジ田構想実現に向けた取組方針
(ハード・ソフトのデジタル基盤整備)
一方のWeb3は、インターネットの非中央集権化を目指す動きである。過去15年ほど続いてきたWeb2.0時代はインターネットと社会の発展をもたらすと同時に、インターネットの中央集権化を招いた。その弊害を取り除き、「分散型インターネット」の実現によってさらなる発展を目指そうというのが、Web3の概念である。
顕在化するWeb2.0の弊害
プレイヤーの観点で言えばGAFAに代表されるメガプラットフォーマーに、地理的に言えば北米、日本国内なら東京や大阪のセントラルDCにあらゆるデータを集め、誰もがそのプラットフォームに依存することで発展してきたのがWeb2.0であり、クラウドコンピューティングだ。このモデルが成長したのは、「そのほうが便利で効率がいい」という誰もが納得する理由があったからである。
その裏側で、どんな弊害が顕在化してきているのか。三菱総合研究所(MRI)で政策・経済センター 特命リーダーを務める西角直樹氏は、「特定のプレイヤーへの集中が利便性をもたらす反面、多様性の喪失や障害発生時のレジリエンスの欠如、言論基盤としての統制の問題などが指摘されるようになった」と話す。
この状態が継続すれば、リスクはさらに増大する。「現時点で活用されているデータは、性別や年齢、Web閲覧や行動・購買の履歴等が中心。だが、Beyond 5G時代には基幹産業もデジタル化され、人間のバイオデータまで集められる。そうなったときに、多様性やレジリエンスの欠如は社会を揺るがす大問題になりかねない。将来を見据えて今、舵を切るべきだ」と西角氏は言う。
ただし、中央集権化の利便性は否定できるものではない。これと並行して「分散型成長」という新たな軸をどう作るかが今後の課題となる。医療・教育、防災、エネルギーや交通といった社会基盤の領域において、リアルな世界と同様に、複数の主体が協調しながらガバナンスを作っていくような世界を作ることが必要だ。
ここで肝心なのが、データを流通・連携させるための“データ連携基盤”の在り様である。「メガプラットフォーマーが強みを発揮しているこのレイヤーにおいて、多様なプレイヤーが連携しながらガバナンスを効かせられるマルチステークホルダーの仕組みを作る」(西角氏)ことで、中央集権化の弊害を解消する。インターネット上で新たな信頼の枠組みを構築するため日本政府が推進する「Trusted Web」は、まさにこれを狙ったものだ。
「DCの分散化は必須」
前置きが長くなったが、こうした流れに合わせて変化するのが、データの集積・管理を担ってきたデータセンター(DC)の役割と機能だ。地域ごとに設置されたエッジDCを基盤に、データを“地産地消型”で活用するモデルが広がる可能性がある。
例えば、監視カメラ映像は必ずしも中央のクラウドまで届ける必要がなく、最寄りの地域DCや施設内のエッジDCで解析し、不審者検知や人流分析を行えばよい。また、自動運転やドローン制御といった低遅延な応答が必要なリアルタイムアプリケーションも、エッジDCの活用が期待される分野だ。
DC向けの各種ソリューションを提供するインテル 新規事業推進本部 クラウド・通信事業統括部 統括部長の堀田賢人氏によれば、「データを集めて渡すというセントラルDCの役割は基本的に変わらないが、AIやインテリジェンスはエッジDCに作るケースが増えてきている」。
こうしたニーズに応えるため、DCは必然的に分散化していくと堀田氏は話す。「今後は、データハブとなるセントラルDCと、分散化するエッジDCに役割が二分していく。デジタル社会の発展において、DCの分散化は必須条件だ」
これは、中央集権化による弊害の解消にもつながる。「5Gや6Gでは、自動運転やリモート手術のように人命にかかわるユースケースが出てくる。DCが、生活に対してダイレクトにインパクトを与える社会インフラになってきた。中央がクラッシュしてもエッジだけで生き残れる環境が必須になってくる」(堀田氏)