情報通信産業を「生態系」と「進化論」で語ろう[第5回]ニッチ&サッチ ダーウィンも語ったニッチの原理(2)

生態学の理論を使って「情報通信産業」を分析すると、一体何が見えてくるのか――。前回はニッチ理論から導き出せる2つの法則、ディヴェルシタス・モデルWTAモデルを紹介したが、今回はこの法則を用いてモバイル市場を論じる。

前回は、ニッチ戦略を計量化し、グラフ化すると、次の2つの法則を得られることを紹介した。

【法則1】共存モデル(ディヴェルシタス・モデル)
サービスの内容の差異が大きいとサービスは共存する。私たちは、このモデルを共存モデル(ディヴェルシタス・モデル)と呼ぶこととした。

【法則2】一人勝ちモデル(WTAモデル)
サービスの内容の差異が小さいと、市場規模が大きいサービスだけが永続する。私たちは、このモデルを一人勝ちモデル(WINNER TALES ALL(WTA)モデル)と呼ぶことにした。

ガラパゴスは法則1のディヴェルシタス・モデル

かつて日本の携帯電話事業者は、日本に閉じて事業展開することを戦略的に決めたという。その決定は、法則1のディヴェルシタス・モデルの選択だった。法則2のWTAモデルに巻き込まれてしまうと、汎用化の波に飲み込まれ、日本の携帯電話事業を取り巻くエコシステムのプレイヤーが全滅してしまうかもしれない。

今は世界に出る時ではないが、いつか必ず世界に出よう――。そのように携帯電話事業者は身内の日本企業を守るためにも考えたに違いない。

実際、日本の携帯電話事業者は同時に、欧州で快進撃を始めたGSMの上位互換である3Gの開発に日米欧の主要ベンダーと着手した。誤算だったのは、欧米での3G展開が日本より遅れたことである。こうして日本は、法則1のディヴェルシタス・モデルの流れを止めることができずに、日本というニッチなガラパゴス市場へと突進し、世界の中で孤立しつつも世界市場でGSMと共存した。

ここで日本の場合、キャリア主導で事が進展したことに注目しよう。日本のキャリアは、日本市場だけで十分に食べていける。また、日本は、世界でも類まれなる生真面目な企業と世界一厳しい顧客が存在する巨大市場である。世界では「カスタマはキング」というが、日本では「お客様は神様」なのである。こうして日本の携帯電話は高付加価値化し、高コスト化した。

お客様は「王様」か「神様か」

GSMは法則2のWTAモデル

一方、ノキアをはじめとする欧州ベンダーは、GSMを開発した。ノキアやエリクソンは、日本より人口の少ない国のベンダーであり、最初から世界市場を視野に入れ、汎用化を意識して事業を進めた。結果的に欧州では、法則2のWTAモデルが選択された。差別化がない場合は、法則2のWTAモデルにより市場が大きい方が勝利する。こうしてGSMは世界中に浸透し、大きなコストダウンに成功した。GSMはあまりに成功してしまったので、彼らがリスクを負って次に挑戦する必要はない。現状のエコシステムに安住する方が楽なのだ。

法則1のディヴェルシタス・モデルと法則2のWTAモデルの論点は、図表3のように整理できる

図表3 法則1のディヴェルシタス・モデルと法則2のWTAモデルの違い
共存モデル(ディヴェルシタス・モデル) 一人勝ちモデル(WTAモデル)
差別化 大きい 小さい
市場 差別化が大きいほど共存 市場が大きい方が勝つ
戦略 ニッチ 汎用化
携帯市場(※前向きに解釈すると) 日本(共存するため日本というニッチに逃げ、ガラパゴス化する) 世界(世界という大きな市場規模を狙うサービスが一人勝ちする)
コスト 高付加価値・高コスト 低付加価値・コストダウン
お客様 神様 王様

日本と欧州、その両方の戦略をじっと観察していたベンダーが、おそらくグーグルとアップルだ。両方のいいとこ取りをして、法則2のWTAモデルで打って出てきた。青くなっているのは、日本より欧州勢かもしれない。日本は今度は後発なので、米国と手を組んで、携帯端末で世界を支配できるかもしれない。

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池末成明(いけまつ・なりあき)

大手コンピュータメーカーにて海外市場での通信機器販売、PCやサーバーの国際戦略立案を担当。その後トーマツグループのコンサルティング会社にて、情報通信市場での事業計画と予算管理、原価計算、接続料問題を主に担当。現在、有限責任監査法人トーマツにて、世界のナレッジマネジャーとともに世界の情報通信メディア業界の調査と事業開発に従事

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