「楽天市場」をはじめ、さまざまなインターネットサービスを展開する楽天。1997年に月次流通額32万円からスタートした同社は、今やグループ全体で年次流通額が1兆円を超えるほどに成長している。さらに日本国内だけでなく、台湾やタイ、中国にも事業を広めるグローバル企業であり、今後は米国やフランスへの進出も視野に入れている。
このように企業として成熟し、海外進出も果たすなか、「コミュニケーションツールに対する新たなニーズが発生した」。そう語るのは、楽天 グループ情報システム部部長の塩谷克利氏である。
では、楽天はいかにして新しいニーズに対応したのだろうか――。2010年7月8日に開かれた「AVAYA WORLD JAPAN 2010」で行われた同氏の講演「楽天のグローバル化、スピード経営を支えるユニファイドコミュニケーション」の概要をレポートする。
楽天 グループ情報システム部部長 塩谷克利氏 |
アバイアのIPテレフォニーサーバーとマイクロソフトOCSを連携
楽天が海外展開するなか、新しく出てきたニーズとは、まずはプレゼンスだ。海外進出したことで、日本とは異なるタイムゾーンで働くスタッフが存在するようになった。そのため相手の状態を把握したうえで、電話やメール、IM、Web会議などから最適なコミュニケーションツールを選択できることが必要になったのだ。
もう1つは、「どこからでも、どことでもコミュニケーションを取りたい」というニーズである。例えば日米では、時差が12時間ほどある。そのため日本で主催する会議に米国のスタッフが参加する場合、米国のスタッフは自宅から参加したいと考えるかもしれない。「こうしたニーズもあるので、それに対応した環境を作っておく必要があった」(塩谷氏)という。
海外進出したことなどで、働く場所が広がり、新たなコミュニケーションツールが必要となったという[クリックで拡大] |
これらのことを考え合わせて楽天が導入したのが、アバイアのユニファイドコミュニケーション(UC)ソリューション「Avaya one-X」および、マイクロソフトのUCソリューション「Office Communications Server」(OCS)だった。楽天では、アバイアとマイクロソフトのOCSを連携させることで、コミュニケーション環境の最適化を図ったのである。
楽天のUCシステム概要[クリックで拡大] |
OCSは、プレゼンス、Web会議、インスタントメッセージング(IM)、音声通話などの機能を備えたコミュニケーションサーバーだ。楽天では、従来からアバイアのIPテレフォニーサーバー「Avaya Aura Communication Manager」(AACM)を利用しているが、OCSとの連携により、AACMによる音声通話の状態も含めてプレゼンスの把握ができるようになった。
OCS/MOCとAACMを連携することで、コミュニケーションの効率が飛躍的に向上したという[クリックで拡大] |
また、ソフトフォンの導入により、「どこからでも、どことでもコミュニケーションを取りたい」というニーズも満たすことができた。楽天では、OCSのクライアントソフトである「Microsoft Office Communicator」(MOC)と、アバイアのソフトフォン「one-X Communicator」の2つのソフトフォンを採用。PCとネットワーク環境さえあれば、どこにいても内線電話やビデオ会議が行えるようになった。
なお、OCSも音声通話機能を備えているが、楽天では以前から導入していたAACMを引き続き電話に利用している。MOCとアバイアのIP電話機およびソフトフォンは連携しており、MOCからコントロール可能。エンドユーザーはMOC上から音声通話、IM、Web会議などさまざまなコミュニケーション手段を相手のプレゼンスに応じて利用することができる。
OCS単体で音声通話を行うという選択肢もあったが、塩谷氏によれば、その場合、内線同士のIPダイレクトでの音声パケット通信ができないため、「WANを増強しなければならず、無駄な投資につながる」という。さらに、「アバイアは音声技術に長けた企業なので、ハイクオリティな音声での通話を実現できる」とAACMを利用した理由を語った。
アバイアとOCSの構成について[クリックで拡大] |
また、今回の新システム導入とあわせ、楽天ではフュージョン・コミュニケーションズのIP電話サービス「Fusion IP-Phone」を導入し、全国共通050番号化を実現。異動や転勤があっても電話番号を変更する必要もなくしたそうだ。
約1000台のIP電話機を削減
海外進出により新たに出てきたコミュニケーションに関する課題を、UCで解決した楽天だが、さらに次のようなメリットもあったという。
1つは、ビデオ会議の利用による出張コストの削減である。楽天では、モバイルPCにWebカメラを標準装備している。簡単に社員間でフェイストゥフェイスのコミュニケーションを取れるようになり、出張コストを削減できたという。また、テレビ会議システムからPCによるWeb会議への移行も進んでいる。楽天では全社で60~70台のテレビ会議システムを導入し、拠点が増えるたびにその数を増やしてきたが、今では新規購入をやめている。「機能的にもまったく遜色なく、大きなコスト削減になっている」そうだ。
ソフトフォンを全社導入したことで、電話機配備コストも低減した。これまでに約1000台のIP電話機を削減。「IP電話機への給電にはPoEスイッチを使っていたが、これも数十台削減できた。消費電力量や発熱量も低減でき、エコロジカルなシステムにつながっている」とのことだ。「IP電話機をなくすことで机のスペースを広く、有効に使えるようになった」など、ユーザーからの評価も高いそう。楽天では、残りの7000台のIP電話機も徐々に減らしていく方針だという。