「結局は、住民に情報をいかに届けるかが一番大事だ。ソフトバンクはそのための“タッチポイント”については日本一ではないか」。スマートシティ施策における自社の強みについて、ソフトバンクの宮城匠氏はこう分析する。
多くの企業や自治体が、住民と協力しながらスマートシティに取り組んでいる。そこで課題となるのが情報発信だ。たとえば自治体や企業は、防災情報やイベント情報などを住民に届けるため、広報誌やWebサイト、SNS、そしていわゆる「街アプリ」を活用しているが、住民に十分届いているかというと現実は厳しいのが実状だ。「いろいろな情報をわかりやすく、ユーザーが気軽に認知できる仕組みが必要だ」と宮城氏は指摘する。
ソフトバンク 法人事業統括 デジタルトランスフォーメーション本部
第三ビジネスエンジニアリング統括部 統括部長 宮城匠氏
こうした背景から、近年のスマートシティ施策では「スーパーアプリ」に期待する声が高まっている。スーパーアプリとは1つのアプリで宅配、決済、配車、ビデオストリーミングなど日常のあらゆるサービスが完結できるアプリのこと。多くのユーザーが日常的に利用するアプリに、発信したい情報を配信してもらうという発想だ。
ソフトバンクは「LINE」や「Yahoo!」、「PayPay」など、すでに広く生活者に浸透したサービスがグループ内に多くある。これらがスーパーアプリに該当するかはともかく、ソフトバンクがエンドユーザーへの接点を数多く持つのは確かだ。これらのサービスをベースに、パーソナライズした情報を届ければスマートシティの取り組みが一段と進化するというのが、ソフトバンクの考え方である。
本社ビルに1300以上のセンサーソフトバンクが今、特に注力しているスマートシティの取り組みが、自身も本社を置く東京都竹芝地区での「Smart City Takeshiba」だ。
竹芝でのスマートシティ構想はバージョン3までを現在予定している。バージョン1では、ソフトバンクが2020年9月に本社を移転した、東急不動産と鹿島建設が共同開発した「東京ポートシティ竹芝オフィスタワー(以下、ポートシティ竹芝)」にAI/IoTなどのソリューションを導入してスマート化する。バージョン2ではビル間の連携や、竹芝地区全体にスマート化の取り組みを広げ、バージョン3では竹芝地区と他都市が連携する。「現在はバージョン1の状態で、ビルでのトライ&エラーを続けながら街に技術も実装していく」と宮城氏は説明する。
ポートシティ竹芝には全館に5Gネットワークを張り巡らせた。その上で「1300以上のIoTセンサーを設置し、リアルタイムに個人情報まで踏み込まないデータだけを集めている。それらの情報を繋げるだけでも価値を生み出せる」と宮城氏は強調する。
たとえばAIカメラに映った人数を解析して複数の飲食店の混雑率を計算し、ビル内のデジタルサイネージに表示して利用客がランチの店を探しやすくしている。他にも、トイレの空き情報を可視化して、「混雑状況を確認できるだけでなく、30分以上トイレの個室にいるユーザーがいたらアラートを防災センターに通知するようにしている。他にも、エレベーターの乗員率を可視化して、従業員に混雑緩和のために9時から10時の間は出社を控えるよう勧めたり、清掃ロボットが階を移動する時に人を避けるための制御に利用している」(宮城氏)という。