通信事業者のビジネスの観点において、4Gまでと5Gを決定的に分ける要素はネットワークスライシングであると言っても過言ではない。
ネットワークスライシングとは、1つの物理ネットワーク上で、特定のビジネス要件を満たす仮想ネットワーク(スライス)を複数提供するコンセプトだ。IP-VPN等の従来の仮想網とは、カスタマイズ性の高さと、エンドツーエンド(E2E)の管理が要求される点で大きく異なる。
アプリケーション毎に異なる要求条件に応じて動的にスライスを制御・管理し、かつ、RANからコアまでつながった“E2Eスライス”としてSLAを担保する必要がある。ノキアソリューションズ&ネットワークス IP/Opticalネットワークス IPルーティング本部長の鹿志村康生氏は、「これまではRAN、コア、その間をつなぐトランスポート網のドメインごとに考えていればサービスが成り立っていたが、ネットワークスライシングでは一気通貫でつなげたかたちで考えないとサービスが作れない。これが従来とは最も違う点だ」と話す。
ノキアソリューションズ&ネットワークス
IP/Opticalネットワークス IPルーティング本部長 鹿志村康生氏
各ドメインのスライスを接続このネットワークスライシングの仕組みは、どこまで実現できているのか。結論から言えば「運用方法はまだ固まっておらず、通信事業者で議論が始まったところ。一方、必要な技術は揃ってきている」(鹿志村氏)。まず、技術面を見ていこう。
キャリアネットワークはRAN、コア、トランスポートのドメインごとに管理・制御される。各ドメインにはインフラを管理・制御するコントローラーが存在し、管理部門もそれぞれ分かれている(図表1)。
図表1 E2Eネットワークスライシングの階層
E2Eスライスを実現するためのコアコンポーネントが、ドメインをまたぐ「サービススライス管理」だ。これがユーザー側の要求条件を満たすよう各ドメインに司令を出してスライスを生成する。例えば「帯域10Gbps、遅延10ms以下。使用エリアはここ」といった要求を具体的な要求事項に翻訳して各ドメインに伝える。
次に、各ドメインのスライスをつなぎ合わせ、E2Eスライスを端末に割り振る。どの端末/アプリをどのスライスに振り分けるかはRANの部分で判断し、トランスポートスライス、コアスライスへとトラフィックを渡す。この各ドメインのスライスを作る技術とトラフィックを受け渡す仕組みはある程度できあがっている。端末を所属させたいスライスを指定する“識別子”を元に、使用するトランスポートスライスやコアスライスを割り振るかたちだ。
なお、現時点では、1つの端末が同時に最大8スライスに接続可能なように仕様の策定が進められている。端末側のIDを基に接続先を変えるという考え方自体は従来のVPNサービスでも可能だが、それを動的に、かつより細やかに制御する必要がある。