SA(スタンドアロン)化とネットワークスライシングの実現により、2021年以降、企業の5G活用はいよいよ本番を迎える。
5GC(5Gコアネットワーク)が導入されれば、低遅延かつセキュアな通信に不可欠なMECの柔軟な配置が可能になり、1端末で複数スライスが利用できるようにもなる。また、外部アプリからNEFを介して多くのネットワーク機能が使えるようになるなど、産業向けアプリ開発の環境も整う。情報通信総合研究所 上席主任研究員の岸田重行氏は、「産業利用においてスライシングはすごく大事。ミリ波の高速化とスライシングが入って、初めて4Gと5Gの違いがモロに出る」と話す。
実際、日本より早期にSAを導入する各国も、B2B領域からSAベースの5Gを展開する方針だ。中国の工業・情報化部は、SA型5G網への投資の8割を「工業インターネット分野」へ振り向ける。欧州や韓国、オーストラリアも初期はB2B領域を想定している。
3パターンの導入シナリオ日本ではさらに、他国に先行するローカル5Gも企業の選択肢になる。これを踏まえて、SA化後の企業の5G導入形態を整理すると、図表の3つに分けられる。
図表 企業ユーザー向け5Gの導入オプション例
1は企業がローカル5Gの設備をすべて所有・運用するパターン、2は5Gコアおよび基地局の運用を通信キャリアがマネージドサービスとして提供する形態だ。ローカル5G活用が進むドイツでは自動車メーカー等で、キャリアがコア網やRANの運用を行う形での導入が進んでいる。
ネットワークスライスが使えるようになると、3の形態が実現する。企業側は通信設備を持たず、運用も不要だ。
ローカル5Gにはデータが外部に出ないというメリットがあるが、3の形態でも、キャリア網内のMECで処理を完結させるなどしてセキュリティを高めることは可能だ。5GCではUPF(ユーザープレーン機能)等の網機能の一部を分散配置できるため、こうした仕組みが構築できるようになる。
ノキアCTOの柳橋達也氏は「それぞれに長所と短所がある。企業自らどこまで制御したいのか、運用にどこまで労力と対価を払うのかによって適切なものを選ぶようになる」と指摘する。2や3が手軽に選べるようになれば、投資力が少なく、メンテナンスに不安を抱える企業にも5Gが身近なものになる。
なお、ソフトバンクはネットワークスライシングを使った「プライベート5G」を2022年度から提供開始すると発表している。