縁側で読書を楽しんでいると、サイバー空間にいる“分身”から連絡が入った。任せていた仕事のことで報告があるという。部下のA君、パートナーのB氏との分身同士の打ち合わせが終わり、後は最終合意を残すのみとのこと。では、本人同士の会議の前に、昼食を済ませておこう――。
SF好きならずとも、そんな未来を夢見たことがある人は少なくないだろう。
ここでいう分身とは、人が操作するアバターではなく、本人の思考や記憶、感情といった個性を写した“デジタルの双子”だ。あなたのデジタルコピーが同僚のデジタルコピーらと働いてくれるのならば、あなた自身は子供との時間を楽しんだり、大切な家族を介護したり、もちろん遊んでいても成果はあがる。報告を受け、肝心な仕上げの段階で臨場すればいいのだ。
複数のデジタルツインを合成2030年代には、これが夢ではなくなっているかもしれない。NTTが推進するIOWN(アイオン:Innovative Optical & Wireless Network)構想では、まさにこれを現実にするための研究が進められている。
NTTが2019年に打ち出したIOWN構想は、従来とはまったく異なる発想で情報通信インフラを作り直そうとする取り組みである。
構成要素は3つ。ネットワークから端末まで光のまま伝送する「オールフォトニクス・ネットワーク」、ネットワークからクラウドまでレイヤをまたがってICTリソースを最適化する「コグニティブ・ファウンデーション」、そして、この2つをベースに現実世界の双子をデジタル上に構築し、新たなアプリケーション/サービスを創造する「デジタルツインコンピューティング」だ。
冒頭の未来像は、デジタルツインコンピューティングで目指す世界観を表したものである。
IOWNのデジタルツインコンピューティング構想では、サイバー空間でヒトのデジタルコピーたちが議論し、
モノのデジタルツインを活用しながら仕事をする未来を想定している(左)。
人間はその間、趣味を楽しんだり、家族との時間を過ごし、コピーから進捗の報告を受ける
(NTTのDTCコンセプトビデオより)
これを実現するには、無くてはならない2つの要素がある。知識や経験、思考といった内面も含めたヒトのデジタル化が1つ。もう1つが、デジタルツインの掛け合わせである。現在は産業ごと対象物ごとに作られているデジタルツインを掛け合わせることで、現実世界をより高精度かつ大規模に再現した仮想社会を作りあげるのだ。
NTTデジタルツインコンピューティング研究センタでセンタ長を務める中村高雄氏は、「ヒトとモノのデジタルツインを合成することで、多様な仮想社会を実現する」と話す。