KDDIの次世代インフラ構築の「先駆け」となるのが、2010年度後半にスタートするマルチキャリアRev.Aの導入である。
マルチキャリアRev.Aは、現行のEV-DO Rev.Aの後継規格であるEV-DO Rev.Bの仕様の1つである。Rev.Bは、Rev.Aの搬送波を複数束ねるなどし、最大で下り73.5Mbps、上り27Mbps(20MHz幅運用時)を実現する規格だが、マルチキャリアRev.AはRev.Aの搬送波を最大3波まで束ね、下り9.2Mbps、上り5.5Mbpsのデータ通信を可能にする。Rev.Bのうち、現時点で唯一商用化されている仕様がマルチキャリアRev.Aである。
当初、KDDIはRev.Bの導入に慎重だった。なぜならKDDIは800MHz帯の再編に伴い、主力インフラの総入れ替えといえる大規模な投資を行っており、さらにその後にはLTEへの投資も控えているからだ。既存設備への投資は極力抑制する必要があったのだ。
また、グループのUQコミュニケーションズが2009年7月からWiMAXによる下り40Mbpsの高速データ通信サービスを展開していたことも、Rev.Bに消極的だった大きな理由の1つである。PC向けデータ通信サービスの需要には、WiMAXで対応できるし、ハンドセット向けサービスではデータ通信速度スペックはそれほど競争力を左右しないという判断もあった。さらに、Rev.B自体が海外でも導入実績のない、新技術であったという事情も挙げられる。
マルチキャリアRev.A導入に転じた理由
にもかかわらず、KDDIはなぜマルチキャリアRev.Aの導入に転じたのだろうか。
その理由の第一は、Rev.Bの仕様の1つであるマルチキャリアRev.Aが、比較的少額の追加投資で導入できるものだったことだ。マルチキャリアRev.Aは、既存Rev.A基地局のソフトウェアアップグレードにより導入できる。
ただ、その結果として得られるのが、最大通信速度の向上だけだったとすれば、KDDIはおそらく導入しなかっただろう。理由の第二は、マルチキャリアRev.Aの導入により、ネットワーク利用効率の向上が期待できたことだ。
KDDIは、大量のデータトラフィックを処理する必要がある都市部の基地局では、複数のRev.A搬送波を運用している。だが、各搬送波の混雑度合いにはばらつきがあり、またその状況はリアルタイムに変化するため、帯域の利用には非効率な部分が生じる。
ところが複数本の搬送波を束ねて使うマルチキャリアRev.Aの場合、同時に利用する搬送波の空いた側に多くのデータが流れ、混雑が平準化される。いわゆる統計多重効果により、ネットワークの利用効率が高まるのである。KDDIでは、ネットワーク利用効率がおよそ5~10%向上すると見込んでいるという。
800MHz帯の再編成の途上にあるKDDIは、2012年のLTE導入まで厳しい周波数のやり繰りを迫られている。それだけにローコストでネットワーク容量の拡大を実現できるマルチキャリアRev.Aの導入価値は非常に高いものとなる。