欧州のロックダウンが起こる前の時点で、167Tbpsという記録的なピークトラフィックが出た。そこから、インターネットがつながりにくくなる状況を回避するための予防的な措置が始まった――。
そう語るのは、アカマイ・テクノロジーズ日本法人で業務執行役員を務める鈴木達也氏だ。
1月23日に中国武漢が封鎖され、3月にはイタリア北部(8日)を皮切りに欧州で移動制限、都市封鎖が相次いだ。“巣ごもり”の影響は即座にインターネットトラフィックの変化として現れた。
アカマイの観測によれば、早期に新型コロナウイルスの影響を受けた4カ国(中韓日伊)の2月のトラフィック増加率(平均)は、他の国々より25%も高い。第1四半期(1~3月)に観測された世界全体のピークトラフィックは167Tbpsで、2019年同期の2倍以上に達したという(図表1)。
図表1 コロナ禍におけるトラフィックの変化
欧米に比べると緩やかな外出自粛が3月下旬から始まった日本でも、トラフィックは明らかに増えている。
2月27日に政府が小中学校の休校要請を行った後、3月のトラフィックは対前年比で34%増加。7都府県を対象とする緊急事態宣言が発令された4月7日以降はさらに加速する。4月8~11日の4日間のトラフィックは、その前週(1~4日)と比べて21%も増え、対前年同期比(2019年4月の同じ曜日)では実に67%の増加となった。「欧州も日本もすべからく、トラフィックが膨れ上がる状態になった」(鈴木氏)
欧州で生まれた「団結」これに危機感を募らせ、いち早く予防措置が動き出したのが欧州だ。
ネットワーク帯域を大量に消費する動画配信/ゲーム関連の事業者が配信調整を始めた。映像ストリーミング配信のNetflixやYouTubeが3月中旬に、欧州を対象として配信動画のビットレートを下げると発表。YouTubeはデフォルトの画質を一時的に480pに変更している。
これには、映像品質の調整によって「映像が途切れる」などの状況が発生しないようにすることで自社のサービス品質を保つ効果もあるが、それ以上にネットワークインフラの負担を抑え、政府の情報発信や医療従事者のネット利用などへの影響を食い止める狙いがある。鈴木氏は次のように話す。
「他にも同様の措置を行っている事業者がいる。現実世界と同じく、交通量が増えすぎて救急車が通れないような状況を作ってはいけない。欧州では社会が一丸となって、インターネットがつながらなくなる状況を回避している」
こうした動きの中でアカマイは、トラフィックの変化を示す情報をコンテンツ事業者等に提供するなどして連携を支援してきた。例えば、混雑あるいは空いている時間帯を示すことで、「混んでいない時間帯・地域を選んで配信するための指針として使える」。
単に総量を制限するのではなく、様々な事業者が団結してインターネットを守る体制ができつつあるのだ。この配信調整によって欧州は、昼間のトラフィックが増え、夜間のピークをなだらかに抑えることに成功している。
同様の動きは世界へ広がりそうだ。鈴木氏への取材を行った4月末時点で、「欧州の例を参考に米国やアジア、日本でも準備が始まっている」。