NTTドコモは2019年4月8日、製造ラインの稼働状況をリアルタイムに可視化・分析できる製造業向けサービス「docomo IoT製造ライン分析」の提供を開始したと発表した。
ドコモ 執行役員 IoTビジネス部長の谷直樹氏は会見の冒頭で、ドコモの中期戦略「beyond宣言」の1つである「ソリューション協創宣言」を紹介。IoT事業は、パートナー企業とのコラボレーションを通じて様々な社会課題の解決を目指す同宣言の具現化に大きく貢献するため、様々な取り組みを進めてきたと説明した。
そのうえで同氏はdocomo IoT製造ライン分析について、「今までのIoT事業で培ったノウハウや知見等を結集したもの。今回のソリューションの提供を通じて、製造現場のデジタル化による生産性改善を実現すると同時に、生産現場の働き方改革もお手伝いさせていただけるものと考えている」と思いを語った。
NTTドコモ 執行役員IoTビジネス部長 谷直樹氏
ドコモが同サービスを提供した背景には、中小製造業においてデジタル活用が進んでいない現状がある。中小製造業では、短納期の受注増加、製造コストの上昇、人手不足が深刻化しており、デジタル活用の必要性が高まっているが、実際に活用している企業は全体の14%に留まっているという。中小企業は高額な設備投資が困難なこと、AIやIoTの知識がある人材が少ないこと、投資対効果が不明瞭であることが理由だ。
中小製造業を取り巻く環境
中小製造業においてデジタル活用が進まない3つの理由
docomo IoT製造ライン分析は、こうした課題を解決するサービスとして開発されたという。
具体的には、「稼働データ収集キット」「稼働可視化・分析システム」「課題特定・打ち手提案」の3つのサービスで構成される。稼働データ収集キットは、外付けの振動検知センサーを製造機械に取り付け、稼働データを収集してクラウドに送信するもの。外付けのため、安価にIoT対応を実現できるという。
稼働可視化・分析システムは、クラウドのデータをもとに生産量や工程、製造機械の停止時間等を分析するもの。そして、その分析結果をもとに、製造現場の生産性改善を専門とするコンサルタントが課題特定と打ち手提案を行う。このため、デジタル人材が不足している中小企業でも、投資対効果を明確にしながらデジタル活用を進めていくことができるという。
サービス構成図
利用料金は初期費用(稼働データ収集キット・設置作業費)がセンサー5個で25万円、10個で40万円。月額利用料(稼働可視化・分析システム)はセンサー5個で3万円、10個で5万円。課題特定・打ち手提案(コンサルティング)はオプションサービスとなり、個別見積。また、別途IoTプランの回線契約とプロバイダー契約が必要となる。
同サービスの提供方法について、ドコモは地方銀行と提携し、地方銀行を通じて中小製造業に提案する。ドコモ、横浜銀行、京浜急行電鉄の3社による「三浦半島地域の経済活性化に向けた連携と協力に関する協定」に基づき、すでに横浜銀行とビジネスマッチング契約を締結しており、横浜銀行を通じて神奈川県の薬品メーカー、大草薬品への導入も決定しているという。
協業した地方銀行を介して中小企業にサービスを提供する
横浜銀行 南部地域本部長の窪田和男氏は、三浦半島の中小企業において人手不足等が経営課題となっている現状を説明。「1社でも多くの製造業のお客様にこのサービスを紹介し、生産性の改善に少しでもお役に立てるよう取り組んでいきたい」と語った。
横浜銀行 南部地域本部長 窪田和男氏
続けて、実際にサービスを導入した大草薬品の事例を紹介。代表取締役社長の大草貴之氏は導入のきっかけについて、安価であること、生産性改善のポイントが定量的にわかること、既存の設備を変える必要なく簡単に導入できる点などを挙げた。同社ではサービスの導入後、生産能力が約10%向上したという。具体的には、錠剤の封入作業において工程の見直しによって60分の作業時間短縮が実現するなどした。
大草薬品 代表取締役社長 大草貴之氏
また、定量的なデータ分析の結果により現場担当者と具体的な議論ができ、今まで見えてこなかった問題点や打ち手が分かるなど、導入前には想定していなかった効果も得られたという。大草氏は「もっと早くこういったサービスがあれば」と高く評価した。
ドコモは同サービスの今後の目標について、2023年度までに15行の地方銀行と提携し、約3000社の契約数獲得を目指すとしている。
サービスイメージのデモ機器。黄色のシールが貼ってあるものが外付け振動センサー。
各機器に取り付けたセンサーからこのゲートウェイを介してクラウドにデータを送信する。
管理画面。上の写真では「チョコ停・ドカ停」と呼ばれる製造機械の短時間・長期間停止状態の分析画面を表示している。