グーグル等のOTTや各国の通信事業者が参画し、SDN技術の開発と標準化を主導するONF(Open Networking Foundation)。そこで今盛り上がっているプロジェクトの1つに「UPAN(Unified, Programmable & Automated Network)」がある。
UPANとは、次世代のSDNリファレンスデザイン(参照設計図)を作る取り組みだ。目的は「柔軟なデータプレーンのプログラマビリティと、ネットワークに埋め込まれたVNFアクセラレーションを可能にする」こと。ONFはこれを「P4」を活用して実現しようとしている。
P4は、データプレーン(スイッチに搭載されるASIC等)をプログラムするための言語だ。従来のSDNがコントロールプレーンをソフトウェアで定義するものであるのに対し、P4ではデータプレーンを直接書き換えることが可能になる。スイッチを交換しなくてもソフトの更新・追加だけで、新たな機能を追加できるわけだ。
なお、P4はデータプレーンのプログラミングに限った技術であり、UPANではネットワーク全体の制御に必要なSDNコントローラーやインターフェースも含む標準化を進めている。
“柔軟なエッジ”に期待データプレーンプログラマビリティは、通信事業者にどんな価値をもたらすのか。NTT東日本のネットワーク事業推進本部でインフラ設備の導入・更改等に携わる山口肇征氏は、新サービスの展開や機能追加が容易になると期待する。「現在は、既存の装置でできなければ、装置を更改するしかない。ハード交換が不要になることへの期待は大きい」
活用領域として想定しているのが、ネットワークのエッジだ。GC(市内交換機)ビル等に置かれる、ブロードバンドネットワークゲートウェイ(BNG)やサービスエッジルーターと呼ばれる装置がP4に対応すれば、加入者のインターネット接続に必要な機能等を提供している装置に新機能をアドオンできるようになる。高度化推進部で技術戦略担当の堀内聖志氏は「IoTや映像配信等のサービスが増えていくなかでエッジ処理が求められてくる。そこでP4が活躍できるのではないか」と語る。
例えば、次のような使い方がある。エッジ装置に「映像の折り返し配信」機能を追加するもので、NTT東とNTTネットワークサービスシステム研究所(NS研)が共同で研究を進めている。
映像配信サービスは一般的に、配信サーバーにアップロードしたコンテンツをエンドユーザーに配信する。これを、サーバーを経由せずエッジで折り返し、かつマルチキャストに書き換えて配信すれば、トラフィック量を軽減でき、遅延も減るためユーザーの体感品質も向上する。
この一連の処理を行うプログラムを、エッジ装置に送り込むのだ(図表1)。オープンソースのSDNコントローラー「ONOS」とEdgecore NetworksのP4対応スイッチを用いて、すでにデモレベルでは実現している。
図表1 P4スイッチへの機能追加のイメージ
また、エッジ装置を仮想化する際に課題となるパフォーマンスの改善にも役立てられる。複雑なサービス制御と高速なパケット処理を行うサービスエッジルーターを仮想化しようとしても、「現状の仮想化技術と汎用サーバーでは、専用装置と同じように機能と性能を両立するには課題が多かった」と、NS研の西木雅幸氏は話す。
そこで図表2のように、負荷の高い処理をP4スイッチにオフロードする使い方も検討している。「柔軟に機能が追加できて、かつ性能も出せるという点で大きな可能性がある」
図表2 P4のユースケース:BNGのディスアグリゲーション