「私たちは今、新戦略の実行フェーズにある。日本、そしてグローバルでも、お客様から良いフィードバックを得ており、正しい道を歩んでいる手ごたえがある」。こう自信を見せるのは、エリクソン・ジャパン代表取締役社長のマイケル・エリクソン氏だ。
エリクソンは2017年3月末、業績回復を目指して、グローバルの新たな事業戦略を発表。それまでは通信事業者向けのビジネスに加え、各産業分野のエンタープライズにも直接ビジネスを展開することも多かった。しかし、新戦略では選択と集中を行い、改めて通信事業者にフォーカスして、ソリューション開発・提供することを決めた。
エリクソン・ジャパンのもう1人の代表取締役社長である野崎哲氏は、この戦略について次のように説明する。
「以前の私たちは、少し手を広げ過ぎていた。特に日本では顕著なことだが、エンタープライズのお客様は通信事業者に声掛けする傾向がある。そこで私たちは、今まで以上に通信事業者に集中することにした」。エンタープライズへのアプローチは、通信事業者経由でも行える。
通信事業者向けソリューションの研究開発費も増やしたそうだ。
現在、研究開発に力を入れている分野は「5G(第5世代移動通信システム)」「IoT」「クラウド」の3つだ。これらの取り組みを通信事業者、そしてその先にいる各産業分野のエンタープライズとともに進め、通信事業者のビジネスをサポートしていくという。
(左から)エリクソン・ジャパン 代表取締役社長 ソフトバンク事業統括本部のマイケル・エリクソン氏、
同社 代表取締役社長 戦略事業担当の野崎哲氏
5Gで超低遅延な触覚技術5G、IoT、クラウドはそれぞれ不可分の関係にあり、それらの研究開発はユースケースが主導するスタイルになる(図表)。エリクソンは、製造業、輸送業、農業、エネルギー業など、多岐にわたる分野で研究開発を進めている。
図表 ユースケースが主導する5G
その1つ、スマートファクトリーの分野において、スイスに本社を置く産業用ロボットメーカーABBと研究開発しているのは、仮想空間にあるモノをあたかも触ったかのように、皮膚感覚のフィードバックを感じられるようにする技術「ハプティックテクノロジー(Haptic Technology、触覚技術)」だ。
この技術は、これまでもゲーム業界で使われてきたが、それを産業向けに応用することを目指している。例えばドローンをリモコンで操縦しているとき、風が吹いてきたら手元のリモコンで風の抵抗を感じられるようにする。5Gだからこそ提供できる超低遅延なネットワークを利用すれば、操縦者にリアルタイムにフィードバックすることが可能になる。
また、イタリアのロボティクスメーカー、Zucchetti Centro Sistemとは、多拠点に工場を所有している製造業向けに、生産プロセスをリモートからコントロール可能にするソリューションの開発を検討しているという。
さらに日本では、コネクテッドカーのサービス基盤づくりを推進する「Automotive Edge Computing Consortium(AECC)」を、NTT、NTTドコモ、トヨタ自動車、トヨタIT開発センター、デンソー、インテルなどと立ち上げた。
コネクテッドカーでは多様な通信技術が用いられることになるが、5G、そしてクラウドとエッジが連携するコンピューティング技術は欠かせない要素だ。今は、「5Gやエッジコンピューティングが必要になるのはどのような利用シーンか」「その利用シーンではどれほどの通信性能が求められるか」などを協議している。今後エリクソンは、それらの要件を満たすネットワークを実現すべく、ネットワークの機能分割や動的な資源割り当てなどができる基盤を開発していくという。