ICT業界 未来シナリオ2017ビデオがX-Techの名脇役に!“枯れた技術”でイノベーション

デジタル化の時代にも、なかなかデータに置き換えられないものがある。人の意思や感情、知識などだ。価値創造の源泉ともなる“アナログ知”を共有する場面でビデオコミュニケーションは大きな役割を果たす。

既存産業とICT技術の融合によってイノベーションを起こそうとする「X-Tech」が様々な業界で進んでいる。金融業界のFintechや医療業界のMedTech、教育業界のEdTechをはじめ、今後は農業分野のAgriTechや公共分野のGovTechなどにも広がっていくだろう。

X-Techとは先進技術を活用してより良いサービスを提供したり、従来にない価値やビジネスモデルを生み出す取り組みだ。そこで活用され得るICT技術には多くのものがあるが、人と人がコミュニケーションを行う場面で威力を発揮するのがビデオだ。

すでに多くのビジネスシーンでビデオ会議や映像配信の仕組みが浸透しており、リッチな体験を提供する技術が低コストに使えるようになっている。成熟技術であるため活用するのに支障が少ない一方で、映像は、人の感情や意思、知識といったデジタルに変換しにくい情報を伝える力を持つ。ビデオはX-Techにおける“名脇役”になれる可能性があるのだ。

例えば教育業界では、ビデオを活用してまったく新しい体験を生み出そうとする試みが進んでいる。

学校にいながら社会科見学「北海道でも醤油は作れますか」という北海道八雲養護学校の生徒の質問に、東京都立北特別支援学校の生徒が「おぉ」と感心の声を漏らす。問いに答えるのは小豆島にあるヤマロク醤油の山本康夫社長だ。醤油蔵を背景に話す山本さんの説明に、生徒たちは目を輝かせて聞き入る。

これは、12月8日にOKIの特例子会社OKIワークウェルの遠隔授業ソリューションを使って行われた社会科見学の一場面だ。香川県立高松養護学校の先生がヤマロク醤油の蔵で行う授業を中継し、北海道と東京都内の計4校の生徒23名が学校にいながらにして“見学”した。最初は緊張気味だった生徒も、100年前から使い続けられる樽の映像や、初めて知る醤油の話に身を乗り出していく。

特別支援学校の生徒にとって社会科見学の機会は稀だ。都立北では年に1回ほど都内近郊で実施しているが、今回は600キロ離れた創業150年の歴史を持つ醤油蔵を体感できた。4校がリアルに参加する社会科見学を実施しようとすれば、準備に必要な手間とコストは測り知れない。

「実際に蔵を訪れたような気分。他校の生徒の考えも興味深かった」と話す中学3年の生徒は「匂いや雰囲気も感じてみたくなった。大人になったらぜひ実際に行ってみたい」とも語った。働くことへの意識を育て職業選択に活かすという社会科見学の目的は、しっかりと果たされたようだ。

合同社会科見学に参加した東京都立北特別支援学校の様子
合同社会科見学に参加した東京都立北特別支援学校の様子。100年以上使い込まれたもろみ桶の表面など、初めて目にする映像に生徒たちは興味津々だった

ここで使用されている技術は、実はそれほど高度なものではない。映像は、ヤマロク醤油を訪れた先生がネットワークカメラで撮影したものを参加4校にリアルタイムに配信。音声通話は、OKIワークウェルが開発した「ワークウェルコミュニケータ」を使い双方向で行った。教材は、タブレット端末のホワイトボードアプリで共有し、書き込みながら授業を進めた。通信はすべてインターネットで行い、ヤマロク醤油側はモバイルルーターを持ち込み、醤油蔵内を歩きながら授業を行った。

月刊テレコミュニケーション2017年1月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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