総務省 渡辺電波部長インタビュー「5Gには日本の産業構造を変えられる可能性がある」

日本は5G時代をリードすることができるのか――。5Gをめぐる動きが世界各地で活発になるなか、総務省の「通信政策2020懇談会」が2020年、そしてさらにその先に向けた日本の目指すべき方向性をとりまとめた。一体どんな5G戦略をもって世界で戦っていくのか、総務省の渡辺電波部長に聞いた。

――「電波政策2020懇談会」の報告書がまとまりました。IoTやAIといった新技術の台頭を背景に、2020年に向けて5Gの動きが世界的に活発になっていますが、どんな方向性が打ち出されたのですか。

渡辺 4Gまでの世界は、ブロードバンドを軸に展開してきたと言えます。高速のブロードバンド環境をとにかく作っていけば、新しいサービスが生まれるという世界でした。

では、5Gはどうなるのか。ブロードバンドは1つの軸であり続けますが、4Gまでとは異なる新しい世界も広がります。多数同時接続や超低遅延も主要な要件となっている5Gには、IoT向けネットワークとしての新規性があるわけで、コネクテッドカーやロボットなど、当然そこには新たな市場が考えられます。

BtoCが中心だったブロードバンド市場とは異なり、IoTではBtoBの市場もしっかり作っていくことが必要です。実際、欧州ではすでに(1)自動車、(2)工場・製造、(3)エネルギー、(4)医療・健康、(5)メディア・エンターテイメントの5分野を5Gの新市場と位置付け、EU全体での研究開発や標準化活動をスタートさせています。

我が国でも、こうしたIoTの世界も睨んだ新しい市場作りに取り組まなければなりません。

総務省 渡辺電波部長

「5G新市場」を9分野で創出――そこで電波政策2020懇談会では、欧州の5分野に対して、9つの注力分野が設定されました。

渡辺 (1)スポーツ(フィットネス等)、(2)エンターテインメント(ゲーム、観光等)、(3)オフィス/ワークプレイス、(4)医療(健康、介護)、(5)スマートハウス/ライフ(日用品、通信等)、(6)小売り(金融、決済)、(7)農林水産業、(8)スマートシティ/スマートエリア、(9)交通(移動、物流等)です。

――「オフィス/ワークプレイス」に「工場・製造」が入るなど、区分や表現は異なりますが、欧州の5分野すべてを包含したうえで、さらに多くの分野をカバーしました。

渡辺 欧州への対抗意識がなかったとは言いません。しかし、それよりも、日本の産業特性や産業構造を考慮したうえで、この9分野が選ばれました。

例えば日本では今後、労働人口が大きく減少します。「農林水産業」や「スマートシティ/スマートエリア」に含まれる建設業などでは、人材の確保が大きな課題となりますが、電波の利活用によって、より効率的な産業構造に変えられる可能性があります。

「スポーツ」はもちろん、東京オリンピック・パラリンピックを見据えたものです。「小売り」も欧州の5分野にはないサービスエリアですが、これは金融関係、スマートフォンなどを使った決済などが今後さらに発展することを予想して選んでいます。

月刊テレコミュニケーション2016年8月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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渡辺克也(わたなべ・かつや)氏

1961年生まれ。1984年、慶應義塾大学工学部電気工学科を卒業後、郵政省(現・総務省)に入省。電気通信局電波部マルチメディア移動通信推進室長、情報通信政策局研究推進室長、通信総合研究所主管、情報通信研究機構統括、総合通信基盤局電気通信事業部電気通信技術システム課長、電波部移動通信課長、通信政策課長、情報通信国際戦略局情報通信政策課長などを歴任。大臣官房審議官(情報流通行政局担当)を経て、2015年7月に電波部長に就任。現在に至る

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