――昨年5月に社長に就任してから丸1年が経ちました。2000年代初頭、日本テレコム(現ソフトバンク)で専務執行役員を務めた折、仕事柄シスコと関わりがあったそうですが、当時の印象と変わったことはありますか。
鈴木 この10年余りの間に、シスコはルーターやスイッチなどネットワーク機器を扱う会社から、コラボレーションやセキュリティを含むITのトータルソリューションを提供する会社へ変貌を遂げました。当時から顧客の立場で高品質なサービスや手厚いサポートを提供する会社という印象を持っていましたが、それらは今も変わらず引き継がれていると感じています。
――社長就任後の事業戦略説明会では、「日本市場により根ざした事業展開」を重点戦略の1つとして強調されていました。
鈴木 日本にはまだ大いに発展できる可能性があります。ただ、現在の経済状況を見ると、ITの利活用によって社会の在り方や人々の働き方を変えていかなければ、成長の波に乗ることは難しいのではないかと危惧しています。
生産性を上げるだけでなく、創造性を活かしたり、競争力を強化するといった観点からも今後はさらにITの役割が重要になるでしょうし、そのためにもIT業界はもっとグローバルな感覚を持って企業のビジネスのデジタル化を支援しなければならないと考えています。
他方、米国本社に対しては、日本市場は言語だけでなく組織や経営管理、規制などの違いから米国市場でのやり方がそのまま通用するわけではないこと、日本のお客様ニーズをより深く把握すればシスコのマーケットシェアのみならずIT市場全体を拡大できる可能性があることを理解してもらうよう訴えています。
本社も2020年に向かう日本のエキサイティングな状況を理解し、サポートしていく意向です。
――これまで日本の官公庁はグローバルに見てITへの対応の遅れが指摘されてきました。これに対し、政府では2020年に向けて「世界最高水準のICT利活用社会の実現」を目標に掲げるなど、ITでの経済再生や成長戦略に積極的に取り組んでいます。
鈴木 シスコとしても、政府のIT戦略とベクトルを合わせていきたいと考えています。
例えば、「一億総活躍社会」の実現は、コラボレーションツールの活用によるテレワークなど時間や場所にとらわれない柔軟な働き方でサポートすることができます。「地域創生」も大きな課題ですが、「Cisco Start」でIT基盤を安価に提供することで、地方企業の成長や発展に貢献できるのではないかと思います。