――財務省退官後、2013年6月にIIJ社長兼COOに就任して2年経ちました。IIJという会社を選ばれた理由は何ですか。
勝 鈴木(幸一・会長)とは二十数年前からの知り合いです。鈴木はIIJを創業した時から、将来インターネットは世の中の全てのものを繋ぐことになると言っておりましたが、最近ようやくそのようになってきたと感じています。
全ての事象がインターネットで繋がるIoT(Internet of Things)では、多様なものがインターネット上に構築されます。そのような時代にインターネットの会社で働くことは最先端の世界にいるわけですから、大変面白いです。
――ICT業界はこれからどのように発展していくと考えていますか。
勝 社会インフラとしてのインターネットは随分普及したように見えますが、本当の発展はまさにこれからではないかと思っています。コンピューターの発展とスマートデバイスの登場、その次はローカルにデータを保存する必要のないクラウド化で、さらに大きな飛躍と変革が進んでいくのは確実です。
例えば、デンマークでは百数十カ所にある地方公共団体のシステムを全部クラウドで統合したところ、ICTコストを70%も劇的に削減することができたと聞いています。イギリスもクラウドファーストで、クラウド化への流れが進んでいます。
世界のICT投資のうちクラウドが占める割合はまだ10%程度ですが、2020年には30%になると言われています。日本は現在わずか5%ですから、非常に大きなスケールでクラウド化が進むのではないかと見ています。
クラウド活用の拡大に期待――日本でも、クラウドかオンプレミスかを論議するレベルから、どう効果的にクラウドを活用するのかという段階に移行していると思います。
勝 企業がICTシステムを構築する際にクラウド利用を優先的に検討するクラウドファーストの考えが浸透しています。日本も例外ではありません。
アベノミクスによる金融緩和などの影響で企業の業績は持ち直してきており、企業はこれまで控えてきたIT投資を再開しています。老朽化したシステムの更改では、必ずクラウドサービスが選択肢に入ってきます。
現在の市場の顕著な動きとして、グローバルではサーバーをはじめとするハードウェアは売行きが芳しくありません。ICT市場全体がクラウド化へ大きく動き出している転換期を迎えているのではないでしょうか。
――IIJはクラウドの新サービスとして、「IIJ GIOインフラストラクチャーP2」と「IIJ Omnibusサービス」を新たなコンセプトで発表しました。
勝 クラウド化の流れは当社にとって追い風です。昨年、マイクロソフトやSAPと提携し、他社のクラウドサービスとの閉域接続によるマルチクラウド環境の提供や、IIJのクラウドサービス上にSAPシステムを構築して提供できるようにするなど、クラウドの取り組みを強化してきました。
10月から提供開始するIIJ GIO P2では、「One Cloud」をコンセプトに、プライベートとパブリックのクラウドサービスを組み合わせて利用していただけるようにします。
そして9月から提供開始のIIJ Omnibusは、SDNとNFVの最新仮想化技術をフル活用したクラウド型のネットワークサービスです。One Cloudのもと、プライベートとパブリッククラウドだけでなく、ネットワーク、セキュリティなども統合し、1つのプラットフォームで提供できるようにしていきます。
IT専門の要員を確保することが難しい中堅中小企業などを中心に、自社で運用しているシステムをクラウドに移行する企業に向けて積極的に拡販していきたいと考えています。
――IIJは、昨年度の売上高1230億円の58%にあたる690億円を「ネットワークサービス」、40%の482億円を「SI」に分類しています。これらの基盤事業をクラウドはどう牽引することになりますか。
勝 前者のネットワークサービスはWANサービス、アウトソーシング、個人向けインターネット接続、法人向けインターネット接続の4つに分けており、後者のSIはSI構築とSI運用保守の2つに分けています。IIJ Omnibusは法人向けインターネット接続になりますから、この分野を拡大すると期待しています。
また昨年度の決算では、パブリッククラウドはネットワークサービスの中のアウトソーシングに、プライベートクラウドはSI運用保守に計上していました。
分類は今後検討する必要がありますが、One Cloudとしてまとめて提供していくことで利便性向上を図り、企業システムの移行を推進していきたいと考えています。