アナログカメラとネットワークカメラで構成される監視カメラ市場の伸びは数%――。関係者の見方は1ケタ成長という認識で一致する。しかし、ネットワークカメラ、いわゆるIP監視システムにフォーカスすると状況は異なる。「ネットワークカメラは毎年、2ケタ台の十数%成長を続けている」と話すのは、アクシスコミュニケーションズ・マーケティング本部シニアマーケティングマネージャーの佐藤秀一氏だ。
背景にあるのは、アナログカメラからネットワークカメラへの移行が急速に進んでいることだ。国内最大手のパナソニックシステムソリューションズジャパン(PSSJ)の製品ラインナップはネットワークカメラが6割、アナログカメラが4割という構成だ。売上高比率では、ネットワークカメラが8割、アナログカメラ2割とその差はさらに広がる。
ネットワークカメラ市場の成長を後押しするのは、製品の進化に他ならない。具体的には、映像の高精細化と高機能化だ。また、「ネットワークカメラの価格がアナログカメラ並みになり、値頃感が出てきた」とPSSJ・商品マーケティングセンターセキュリティ・サウンドグループグループマネージャーの萱野実氏が話す通り、価格の低廉化も普及要因となっている。
もう1つの成長エンジンが、製品の進化をテコにした用途の拡張だ。(1)マーケティングや売上拡大、(2)顧客満足度の向上、(3)社員の研修など、ネットワークカメラの新しい活用法が広がっている。防犯という従来のくくりを超えた用途の拡大は、製品そのものの進化、企業におけるネットワークの普及、さらにメーカー/販売代理店の提案努力によるものだ。
本稿では、ネットワークカメラ市場の動向を、製品トレンド、用途の拡張、メーカー/販売代理店の取り組みの3点から見ていく。
全方位撮影がトレンドに
製品トレンドとして、まず挙げるべきは高精細化だ。最近はそこに360度、すなわち全方位撮影機能が加わる。高精細映像で全方位が撮影できる製品が各社から投入されている。
「1メガピクセルは最低ライン」と語るのはアクシスの佐藤氏。同社の場合、1メガピクセルの製品がメインストリームで、さらに3メガ/5メガピクセルの解像度を持つカメラを製品化している。2012年11月に発表した「AXIS M3007-PV」は5メガピクセルで360度撮影可能。広範囲な映像を撮り、2画面/4画面に分割して表示する。
アクシスコミュニケーションズの全方位カメラ「AXIS M3007-PV」。5メガピクセルの画像センサーを搭載する |
「Hemispheric(半球)カメラ」をいち早く市場投入し、全方位撮影機能で先行したモボティックスも、高精細化を推し進めてきた。同社の「Q24」は3.1メガピクセルの高解像度を実現しており、1台で死角のない360度監視を可能にした製品だ。
他社に先駆けて2011年から全方位カメラを展開しているモボティックスの「Q24」(左)。天井に設置して広範囲を撮影するほか、壁面に設置すれば、長い廊下でも1台で、広く見通した映像が撮れる(右)。さまざまな応用が可能な製品だ |
PSSJも2012年12月に、3メガピクセルの解像度を持ち、360度撮影可能な「DG-SF438」など3機種をアイプロシリーズの製品として発表した。超広角魚眼レンズを搭載し、補正機能によって平面映像を表示できる。パノラマ、ダブルパノラマ、4画面PTZ、1画面PTZ、4ストリームの5つの撮影モード機能を備える。
パナソニックシステムソリューションズジャパンは12月に全方位カメラ「DG-SF438」などを発表。目立たない外観(右)も、店舗等への設置には重要となる。1台で広範囲を撮影し、4画面分割(左)や2画面パノラマなど、多彩な表示方法が選べる |
このようにメーカー各社が「高精細+全方位撮影」に注力しているが、そのメリットは何か。高解像度の映像は、人物の顔の認識や自動車のナンバープレートを読み取るといった用途に効果を発揮する。
もちろん、“そこそこの解像度があれば十分”という需要もある。だが、そういったケースでも実は高精細カメラは効果を発揮する。例えば、広範囲な対象を監視することが主な用途であり、死角をなくすためにカメラを何台も導入しているといったケースだ。ここに3メガピクセルの解像度を持つ全方位カメラを導入して、撮影範囲を3つの画面に分割して表示すれば、それぞれ1メガピクセルの解像度を持つ映像が得られる。つまり、1台のカメラで3カ所を監視させる「1台3役」が可能となるわけだ。その分、監視システムの導入・運用コストが低減できる。