海外にも、企業等が特定のエリア内で自営網を構築する日本のローカル5Gと同様の制度はある。また、携帯電話事業者に割り当てられた周波数を使い、携帯電話事業者が構築や運用も担って企業等にプライベートな5Gネットワークを提供可能な国もある。
前者はドイツや韓国など、後者は主に米国や中国が力を入れているが、「大半の国では、いかにしてユースケースを作り上げ、マネタイズするかが大きな課題になっている」と情報通信総合研究所 ビジネス・法制度研究部 主任研究員の中村邦明氏は指摘する。
そうした中で本格的な普及期を迎えているのが、中国のプライベート5Gだ。
2021年7月に工業・情報化部が策定した「5G利用船出行動計画(2021-2023年)」により、鉄鋼や港湾、電力など97の重点分野のうち74分野ですでに5Gが導入されている。プライベート5Gについては、2024年4月時点で3万件超が構築済みだ。
5G開始当初から5G SAでエリアを展開してきた中国では、5Gコアで実現するネットワークスライシングによるプライベート5Gを提供している。
中国におけるプライベート5Gの最大規模の事例である深セン市湾港の場合、AGVやクレーンの遠隔操作、桟橋の自動調整、コンテナヤードの無人化、ネットワークカメラによる遠隔監視などの用途ごとに、ネットワークスライシングで仮想的にネットワークを切り分け、個別に制御・最適化。さらにエッジクラウドと組み合わせることで、「船舶の運航情報を基に、いつどこに停泊し、どのタイミングで荷物を運び出すかも予測可能になった」とマルチメディア振興センター 調査研究部の裘春暉氏は説明する(図表1)。
図表1 中国最大規模の5Gによる深セン市湾港の自動化
これにより危険作業が50%減少し、作業員を65%削減できた一方、作業効率が50%向上した。物流コストも30%削減され、収益向上につながっているという。
DXソリューションの海外展開も
中国のプライベート5Gは、業界別のDXソリューションを携帯電話事業者とITベンダーが開発し、携帯電話事業者がネットワークスライシングと組み合わせて提供するケースが中心だ。
ベンダー各社は国内での実績を背景に、DXソリューションを海外に展開しようとしている。例えばファーウェイは、タイなど東南アジア各国で、工場のスマート化を実現するソリューションを現地のプライベート5Gと組み合わせて提供しているという。
ただ、米中経済摩擦の激化により、米国や欧州では中国ベンダーの製品が締め出されている。中村氏は「中国国内で様々なユースケースを作り上げても、ソリューションを欧米諸国に展開できるかどうかは未知数」と見る。