日本から見えにくいNTNの威力
モバイル通信事業者(MNO)にとって非地上系ネットワーク(NTN)は、通信エリアのカバレッジを広げるための有効な手段となり得る。3GPPは5Gの基地局機能を通信衛星に搭載するための標準仕様「5G NTN」を策定し、Release 17以降、段階的に機能を拡充してきている。
そのNTNのなかでも、高速かつ低遅延通信が可能な点で期待が集まっているのが、低軌道(LEO)衛星コンステレーションだ。実用化において、もう1つの有望株であるHAPSに先行しており、近い将来、LEO衛星と地上のスマートフォンが直接接続する「スマホダイレクト」が実現する見込みだ。MNOは地上系ネットワーク(TN)を展開できないエリアでも、サービスが提供できるようになる。
ただし、日本はNTNがあまり必要でない国だ。光ファイバーが未整備の新興国や、米豪のように国土が広くTNの整備に限界がある先進国と比べると用途は限定的。災害等でTNが使えない際の緊急用、山間部や島嶼地域、海上での利用がメインとなる。
だが、そんな国内事情だけを見ていては、NTNの破壊力を見誤ると指摘するのは、A.T.カーニーで通信業界を担当するシニアパートナーの滝健太郎氏だ。
総務省 宇宙通信アドバイザリーボードのメンバーでもあるA.T.カーニー エグゼクティブ アドバイザーの石田真康氏(中央)と、A.T.カーニー マネージャーの竹井潔氏(右)、シニアパートナーの滝健太郎氏
6G時代にはTNとNTNをつないだ多層的な通信システムがメインストリームとなる可能性が高い。衛星通信は最早、地上通信の補完的な位置付けではなくなる。
さらに注目されるのが、LEOコンステの“2強”となりそうなスペースXとAmazonの動きだ。Starlinkを展開するスペースXと、2024年中に衛星ブロードバンドサービス「Project Kuiper」を開始予定のAmazonは「通信業界のゲームチェンジを狙っている」と同氏。宇宙ビジネスに巨額を投資するメガプレイヤーが、MNOやベンダーを巻き込み、通信市場の勢力図を塗り替える可能性があるという。