マイクロソフトの共同創業者、ビル・ゲイツ氏は人生で2度、革命的なテクノロジーのデモを体験したという。1度目は1980年、GUIのデモを初めて見たときだ。GUIを採用したWindowsはその後、世界中に普及し、我々の生活や仕事は大きく変わった。
2度目はつい最近のことだ。2022年半ば、ゲイツ氏はマイクロソフトが多額の投資をしているChatGPTの開発元、OpenAIのチームにある課題を与えた。アメリカの高校には、Advanced Placement(AP)科目という上級レベルの科目がある。その生物学試験に「合格できるように」という課題である。
「この挑戦により、彼らは2、3年は忙しくなるだろう」とゲイツ氏は思ったというが、その予想が間違いだったことはすぐ明らかになった。わずか数カ月後の9月、生物学試験60問中、59問に正解するのを「畏敬の念を持って見た」とゲイツ氏は自身のブログに記している。
それから2カ月後の2022年11月、ChatGPTは一般公開され、全世界がゲイツ氏と同じく強い衝撃を受けた。
生成AIは今も進化し続いている。今年3月に公開されたGPT-4は、アメリカの大学入試等の難関試験でも上位の成績を収めた(図表1)。
図表1 ソフトバンクグループの生成AIの能力イメージ
「つまり、平均的な人類より、すでにGPT-4のほうが合格できる」。ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は、6月21日の株主総会でこう述べたうえで、「AIは、少なくとも全人類の叡智を総和したレベルの1万倍にはなる。しかも、それが数十年以内にやってくる」とした。
ソフトバンクグループ 代表取締役会長兼社長執行役員 孫正義氏
人類を超えた叡智を獲得しつつあるAIが、これから社会を大きく変えていくことに疑いを挟む余地はない。図表2はアマゾン ウェブ サービスジャパンが7月3日に開催した大規模言語モデル(LLM)の開発支援プログラムに関する記者説明会で示した生成AIのビジネスにおける可能性の一例だが、これらはごく一部の可能性に過ぎないだろう。
図表2 生成AIで広がるビジネスの可能性例
「AIは様々な産業分野での活用が期待されているが、裏返していえば、一定程度、AIを開発する力を持たなければ、多くの産業で競争力を一気に失う恐れもあるということ。日本のAI開発力は現時点では世界と比較して『決して高くない』と言わざるをえない」
7月4日、東京大学で行われた「東大×生成AIシンポジウム」。岸田文雄総理大臣はこう危機感を露わにし、AI開発力の強化の重要性を強調した。