5Gの電波、特に超高速・大容量通信を可能にするミリ波帯(28GHz帯)は遮蔽物に弱く、扱いが難しい。5Gがどこでも快適に使える社会を実現するには、障害物の多い屋内のカバレッジをいかに効率的に広げるかが課題だ。
これに真正面から取り組むのが、NTTドコモとそのパートナー企業たちだ。同社のブースではその最先端技術が披露されている。
ワイヤレスジャパン2023のNTT/NTTドコモブース
下の写真は、ドコモが横浜国立大学、日本電業工作、富士通らと開発し、世界で初めて28GHz帯5Gでの実証実験に成功した「屋内マルチセクタアンテナ」だ。通常、基地局アンテナから出る電波は90度の幅で射出されるため、全方位をカバーするには4面のアンテナが必要になる。だが、このマルチセクタアンテナは360度全方位をカバー。これを天井に設置することで、1台で広範囲を5Gエリア化することが可能だ。
世界で初めて28GHz帯5Gでの実証実験に成功した「屋内マルチセクタアンテナ」
これにより、回路規模は従来の10分の1に低減。設置・運用コストが抑えられることはもちろん、低消費電力化にもつながる。
もう1つ、ユニークなのが「電波の窓」だ。電波がよく届き、かつ“暖かい”住居やオフィスの実現を目指して、YKK APと共同開発したものである。
「電波の窓」の電波透過性を紹介するデモ
断熱性能の高い窓ガラスに使われている素材は電波を通しにくいため、外からの5G電波が屋内に入り込むのを邪魔してしまう。そこで、高断熱性と電波の通りやすさを両立するエアロゲル素材を採用。ドコモブースでは、高断熱なLow-Eガラスと比較した電波透過特性を紹介するデモを実施している。
電波が使えない海中で映像を無線伝送
2030年頃に実用化される6Gに向けては、地球全域で無線通信を可能にする「超カバレッジ拡張」技術の研究開発が進められている。その1つである海中通信の現状もドコモブースでは見ることができる。
電波が使えない海中で長らく使われてきた音波による無線通信は、通信速度が非常に遅い。これを大幅に改善したのが、ドコモが開発した「海中音響通信技術」だ。浅い海域で「1Mbps・300m」の無線伝送を実現。独自に開発した海中音響通信ボードを、これまでケーブルをつないで操作していた水中ドローンに搭載した(下写真)。
海中音響通信ボードを搭載した水中ドローン
水中ドローンを無線化することで活動範囲は大きく広がる。かつ、1Mbpsの速度が出るため、高精細とはいかないまでも映像の伝送が可能になった。海中探査等への応用が期待されており、「速度・距離ともにまだまだ性能は高めることができる」(説明員)と、さらなる開発を進める。
このほかにもNTT/NTTドコモブースでは、5Gのカバレッジ改善に貢献する技術、宇宙通信やHAPSといった超カバレッジ拡張の実現に向けた研究開発の現状を知ることができる。