住民サービスや地域企業のビジネスがデータを起点に動いていく──。
全国に地域DXを浸透させるデジタル田園都市国家構想(デジ田)が見据えるのは、そんな日本の姿だ。この社会変革に自治体や企業はどう挑めばいいのか。
これまでも各地で地方創生や自治体業務のICT化、スマートシティといった旗印の下、住民生活と地域経済を変革する取り組みが続いてきた。デジ田は、デジタル技術の活用を軸に据えることで、それらを発展させるものだ。先行事例に学ぶ点は多い。
目標や成果は地域によって異なるが、成功に欠かせない要素がある。持続可能な仕組みを作ることだ。補助金の終了とともに幕を引くことなく、持続可能なビジネスとしてデジタルサービスを地域に根付かせる。
先行する自治体は、どんな手法でこの壁を乗り越えようとしているのか。持続可能な地域DXを実現するためのポイントを、3つの論点で整理しよう。
①地域DXの入口 課題と個性を見極める
地域DXの入口となる「解くべき課題」は、少子高齢化や過疎化、防犯・防災、産業振興など自治体によって異なる。以前からこうした課題と向き合ってきた自治体は、デジタル技術の使いどころやDXのビジョンも明確化しやすい。
一方、自治体業務のICT化を切り口として取り組んできたところは、「ICT利活用が目的化してしまっているケースもある。ICTツールありきで、街づくりのビジョンを後付けで掲げる地域もないとは言えない」と指摘するのは、野村総合研究所(NRI)コンサルティング事業本部社会システムコンサルティング部チーフコンサルタントの毛利一貴氏だ。「持続可能なビジネスにするには、民意が反映されたサービスでなければならない」
出発点は「地の利を活かす」
もう1つ、ビジョン策定において重要なのが、地域の個性を活かすことだ。2つの例を紹介しよう。
2011年にスタートし、スマートシティの成功例の1つに挙げられる会津若松市。その支援に携わってきたアクセンチュア ビジネスコンサルティング本部 ストラテジーグループ 公共サービス・医療健康プラクティス日本統括の海老原城一氏は、「地の利を活かす。自然や歴史・文化、食といった会津若松の良さを活かした街づくりをすることが、最初に考えたことだった」と振り返る。また、会津若松には水力や地熱、バイオマスに風力と様々な再生可能エネルギー、優れた医療機関、コンピュータサイエンスの専門学部を持つ会津大学もある。「非常に特色のある街。これを活かして、データを活用した新産業創出を目指すというのが出発点だった」
2つめは、人口約3200の北海道更別村。ドローンやEV農機を導入して大規模農業を推進し、国家戦略特区スーパーシティの指定を目指している。
同村のパートナー企業であるウフルCEOの園田崇史氏は、「個性に対する認識がすごく良かった」と話す。「帯広空港に近く、農業事業で成功してきた村。自治体と民間企業がうまくオーケストレーションするには、企業がアクセスできることが大前提。日本は交通インフラが行き届いた地域が多く、更別村はそれを活用する意思をもって取り組んできた典型例だ。高付加価値な農業を実現しつつも、高齢化の問題を解決しなければ持続できない。この個性と課題認識がしっかりしているので、我々のような企業も対策を考えやすい」