LTEと5Gには決定的な違いがある。5Gが、産業・社会基盤の役割を担うことを想定した信頼性とレジリエンス(弾力性)を備えたクラウドネイティブアーキテクチャを採用している点だ。
5G NSAでも使われているLTEコアは、当初は専用ハードウェアの組み合わせで作られ、後に仮想マシン(VM)ベースの仮想化技術が導入された。対して5Gコアは、アプリケーションの可搬性がより高いコンテナベースの仮想化を採用。ネットワーク機能はマイクロサービスによって実現される。この基本設計の違いが、強靭さにおいて大きな差を生み出す。
図表1は、5Gコアにおけるセッションフェイルオーバーとオートヒーリングのイメージを示したものだ。1つのマイクロサービスに障害が起きても、その複製が即座に代替。その間に新たなマイクロサービスを作りオートヒーリングを行う。複製されたマイクロサービスでロードバランシングも可能だ。
図表1 コンテナベース仮想化と信頼性・アベイラビリティ
このような仕組みはVMベースの仮想化でも作れるが、エリクソン・ジャパンの藤岡氏によれば「LTEではベンダーの実装に大きく依存していた。5Gでは標準仕様、基本構成として組み込まれている」点が異なる。
また、5Gコアは機能の分散も可能だ。例えば、工場向けに5Gサービスを提供する場合に、ユーザーデータの転送機能(UPF:User Plane Function)や、セッション管理機能(SMF:Session Management Function)をローカルに配置できる。この「地理的冗長性の機能が入っている」(同氏)ことも5Gコアの特徴だ。
R16でさらに強靭に
こうした基本設計に加えて、Release16(R16)ではさらに高信頼なネットワークを実現するための標準機能が規定された。今後、5G SAへの移行に伴って次の機能がモバイルネットワークに導入されていく。
1つが「NF Set」だ。
5Gコアではネットワーク機能群ごとにNF(Network Function)が定義されており、各NFはAPIを通じて通信する。NFは、それぞれのサービス(NF Service)を実行するうえで、他のNFから必要な情報をもらう。1つのNFが機能不全に陥ると、影響は他のNFへ連鎖。NF Setは、このNFの動作環境を冗長化することで、障害の影響が波及するのを防ぐのに役立つ。
NFおよびNF Serviceの処理はそれぞれのインスタンスで行われるが、図表2のようにインスタンスを複数セットにすることで、NF/NF Serviceの処理を分担し、あるインスタンスに問題が起こった場合でも処理を継続できるようになる。
図表2 NF Setのイメージ
NF間で過負荷情報を通知する仕組みも、R16でアップデートされた。
5Gの初期仕様(R15)では、各NFのサービスを登録するNRF(Network Repository Function)を介して間接的に負荷情報を配信していたが、R16では直接通知を採用し、即時性が向上。さらに、より詳細な内容を通知できるようになり、負荷の低いNFを選択して、ネットワーク全体で負荷を分散することが可能になった。