5Gの商用サービスが始まり2年が経つ。現在の5Gの人口カバー率は約30%。総務省では23年度末までに95%、25年度末までに97%まで高める方針を打ち出している。各通信事業者はこの方針に対応するため、5Gネットワークの早急なる敷設が求められる。
通信事業者の5G全国展開に立ちはだかる壁とは
その一方で、各通信事業者にとって投資を十分に回収できるように5Gネットワークを最適に設計するにはまだまだ課題がある。ではどのような設計を選択すれば良いのか、頭を悩ませている通信事業者も多いのではないか。
5Gの特徴は「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」ができることだが、その実現技術として、MIMOを進化させたマルチユーザーMIMO(MU-MIMO)、マッシブMIMOがある。これにより、サブ6での5Gに対しては、使えるRFパス構成の選択肢は、4Gで使われている2T2Rや4T4Rから、8T8R、32T32R、64T64Rへと選択肢が増えている。基地局ベンダーの中には5Gでの8T8R無線機器において、すでにMU-MIMOをサポートすると発表したものも登場している。5GデバイスはMU-MIMOをサポートすることはもはや疑いなく、5G展開を進める事業者にとってはMU-MIMOを採用した8T8Rが、多くのサイトのデフォルトRF構成になり、他のソリューションは適材適所で使われることになると考えられる。
なぜ、そう言えるのか。
確かに5Gの特徴を最大に生かす選択肢として、32T32Rや64T64Rなど、送受信アンテナ数を大量に増やし、通信の安定と高速化を図るマッシブMIMOソリューションを使うことが得策のように思える。このソリューションがもたらすメリットは、より大容量な伝送が可能になることだからだ。
だが、このようなマッシブMIMOはSub6バンドでのビームフォーミングに対する唯一の選択肢とは言えない。64T64Rはサブアレイの数が多いため良好な垂直方向のステアリングが期待できる。一方32T32Rは、サブアレイ数が少ないため、垂直方向のステアリング範囲が制限される。このような違いはあるとはいえ、64T64Rや32T32Rは、水平方向と垂直方向のビームステアリングをサポートするというメリットを持つ。このメリットを最大限発揮させることができるのは、高層ビルが建ち並ぶ都市部など、垂直面で密なトラフィックが分布する負荷の大きいセルである。一方、郊外や地方など、高層ビルがない場所では垂直方向のビームステアリングの利点は失われてしまうことになる。
8T8Rは高層ビルが密集しない都市部や郊外、農村部向け
しかも郊外、地方などでは、サイト間の距離が長くなる。このような場所では、カバレッジを広げユーザーのスループットを向上させるには、水平方向のビームステアリングの方が有効に働く。つまり郊外や地方など、サイト間の距離が長くなる場所では、64T64Rや32T32Rは、大きな投資に見合うだけの効果が得られなくなってしまうというわけだ。
ではそういった高層ビルが建ち並ばない都市部や郊外、地方(農村部)など、サイト間の距離が比較的長いエリアの選択肢として最適なのが、4Gネットワークで主流のビームフォーミングである8T8Rだ。8T8Rシステムは、主にRRU(リモート無線装置)とアンテナが別々に構成され、TD-LTEネットワークで広く使われてきており、そのパフォーマンスは良く知られている。
現在、導入されている8T8RのRRUでは、トラフィック負荷の低いケースにおいてセル容量は十分で、MU-MIMOの必要性がないため、MU-MIMOはほとんどサポートされていない。しかし、将来のトラフィック需要増を考慮した場合、8T8RとMU-MIMOのアップグレードは魅力的だ。つまりMU-MIMOをサポートした8T8Rのユースケースがさらに広がることが期待されている。この期待に応えられるよう、コムスコープでは8T8Rの新しいソリューションを用意している。
従来、8T8Rアンテナは、水平方向に4列のアンテナ素子があるが、8列のマッシブMIMOに比べて、約2倍の水平方向のビーム幅が得られる。これはゲインの減少を意味するが、アンテナを長くすることで、このゲインの減少分を容易に補うことができる。また8T8Rアンテナは、垂直方向のサブアレイは1つのみで構成されているので、水平方向のビームステアリングのみをサポートしているが、さらに遠隔チルト制御 (RET)によって、垂直方向のビーム制御が可能だ。これは、動的な垂直面のビームステアリングを必要としないケースでは、投資対効果に優れている。
これらのことから、高層ビルが密集する都市部では、マッシブMIMOのパフォーマンスが最適に生かせる64T64R、もしくは32R32T、郊外や地方(農村部)は8T8R、低層ビルの多い都市部では、8T8RとマッシブMIMOを組み合わせて使う、もしくはどれか1つのソリューションに絞るという方法を採ることで、投資対効果を最大化できる可能性があるというわけだ。