今、全国でローカル5G の実証実験が盛んに行われているが、日本製鉄は2017年から先駆けてローカル5Gの検討を開始していた。
2020年8月に自営等BWA免許を取得し、室蘭製鉄所で実証実験をスタート。敷地内を走るディーゼル機関車の遠隔運転を最終目標に、4Kカメラをディーゼル機関車に搭載し、映像を伝送・分析することで遠隔運転に必要な技術要件を確認、また高精度測位であるRTK測位によって車両表示位置の精度を向上させるなどの実証を行った。
そして2021年11月に4.8GHz帯のローカル5G 免許を取得。2022年1月から同じ室蘭製鉄所で、BWAをローカル5Gに置き換えて実証を続けている。まずは電波がどの程度広がるかなどの基礎調査から始め、次にユースケース検証として遠隔運転や作業員の見守り、建屋内にある既存ネットワークの無線化などに取り組む予定だ。
日本製鉄室蘭製鉄所におけるローカル5Gの電波照射範囲(無線局免許申請時の調整対象区域)
NSSOLが見るローカル5G需要2017年の検討段階からこうした一連の取り組みを支えているのが、子会社の日鉄ソリューションズ(以下、NSSOL)だ。
「親会社のニーズから始まり、取り組みを進める中で、NSSOLでローカル5G導入を事業化できると判断して正式展開を決めた」とNSSOL テレコムソリューション事業部 エンタープライズ5G事業推進部 専門部長(ローカル5G事業推進担当)の石井大介氏は話す。
NSSOL テレコムソリューション事業部
エンタープライズ5G事業推進部 専門部長(ローカル5G事業推進担当)石井大介氏
ローカル5G 制度の開始から2年以上経った現在、日本製鉄以外にも15社へローカル5Gを導入している。電力会社、石油化学など大型のプラントを構えている製造業からの引き合いが強いという。
「製造業の現場での課題、実現したいことの代表的なものとして挙げられるのが、三密回避、省人化、生産性向上だ。また、2024年12月から電波法の改正によりアナログ方式の簡易無線局が使えなくなるため、この機会に大容量の無線を使って遠隔運転、定点カメラ、作業支援といったDXを進めようと検討している製造業は多い」(石井氏)
図表 NSSOLのプライベートLTE・ローカル5G 受注・導入事例
他にも、製造ラインをデジタルツイン化するためのデータ収集や、既存の制御ネットワークを無線化するための手段として、ローカル5G需要が顕在化している。産業機器メーカーが自社開発している機器に5Gを組み込むための研究開発の一環で、自社ラボ内に基地局を導入する事例もあるという。
ローカル5G を検討する際には、Wi-Fiが比較対象に上がることが多いが、「東京ドーム200個分の敷地を持つ製造企業で、その広大なエリアをカバーするとなると、Wi-Fiでは数百もの機器が必要になる。対するローカル5G の飛距離や伝送効率は圧倒的で、同じ面積でも数十分の一の量でカバーできる。災害時でも公衆網の影響を受けずに運用できることもあり、ローカル5G の採用を検討されるお客様は多い」と同氏は言う。