「電気信号へ変換せずにオール光で通信する」という画期的なコンセプトを掲げるIOWN APNの具体像が見えてきた。IOWN構想の推進団体であるIOWN Global Forum(IOWN GF)が2021年末に公開した技術仕様「Open APN」だ。
Open APNでは図表1に示す8つの目標「Design Goal」を規定。今後、検証やPoCを実施し、そのフィードバックを基に2024年に改定版が作られる計画だ。2022年からいよいよAPNの技術開発と社会実装がスタートする。
図表1 IOWN Open APNのDesign Goal
既存のROADM網と何が違う? Open APNの2つの新要素とはIOWN GFでは2030年までの技術開発ロードマップを示しており、ともすればAPNの実現は遠い将来と見られがちだが、実はそんなことはない。「現時点でも活用可能な技術が少なくない」と語るのは、IOWN GF設立当初からのメンバーで、Open APNタスクフォースでも中心的な役割を果たすシエナでシステムエンジニアリング本部 本部長を務める瀬戸康一郎氏だ。現行製品をベースに、Open APNの機能を実現するための取り組みを始めている。
日本シエナコミュニケーションズ システムエンジニアリング本部 本部長 瀬戸康一郎氏
そもそも現在のネットワークとOpen APNは何が違うのか。瀬戸氏は2つのポイントを指摘する。
1つは、光ネットワークの中核ノードであるROADMの構成の違いだ。
ROADMは、波長選択スイッチ、波長多重分離の2機能からなる。Open APNでは波長選択スイッチに相当する「APN-I」、波長多重分離に当たる「APN-G」を規定しており、この2つは既存のROADMと同様の構成になる。変化するのは、ROADMに接続されるトランスポンダーの配置だ。通常、トランスポンダーはROADMと同じサイトに設置されるが、Open APNでは「遠隔にトランスポンダーを配置する構成を規定している」(瀬戸氏)。例えば、エンドユーザー宅に配置し、局舎のAPN-Gとの間をアクセスファイバーでつなぐ。
ここで、「遠隔トランスポンダーからAPN-Gに来る光波長を折り返せるようにする」必要が出てくる。さもなければ、局舎にルーターを置いて光電変換をした上で折り返すしかなく、現在のROADMにはないこの「折り返し通信モジュール」を新たに開発する必要がある。
Open APNではもう1つ、従来の光ネットワークにない新機能が規定された。「Flexible Bridge(FlexBr)」だ。
FlexBrとは、1G~25Gの低・中速サービスを収容する新ノードである。多数の低・中速サービスをそのままAPNに収容するのは効率が悪いため、それらを広帯域の光パスに束ねることで、伝送効率を向上させるのが目的だ。加えて、APNを早期展開するためにもFlexBrは重要な役割を果たす。多種多様なデバイス/サービスをFlexBrに収容してAPNに接続することが可能になるためだ。
ここで重要なのが、FlexBrで「超低遅延・低ジッタ」の中継・多重を可能にすることだ。Open APNでは、数マイクロ秒の超低遅延で光パスを通す「Type D1/2」、少ない遅延で複数サービスを1つの波長に多重する「D3/4」、1対多通信もサポートする「D5/6」の全6タイプの中継モードを規定している。