――日本ではNTTドコモやKDDIがMEC(マルチアクセスエッジコンピューティング)サービスを提供していますが、海外の状況はどうですか。
パニック 私が営業を担当しているアジア太平洋地域(APAC)は5Gのビジネスが特に伸びているエリアであり、中でも「エッジ」はとてもエキサイティングな状況です。
私個人としてもエッジは非常に期待が大きい分野です。というのも、MECによって通信キャリアはネットワークをマネタイズする新たな方法と機会を得ることができるからです。
通信業界は3Gと4Gに膨大な投資をしてきましたが、それによって収益性が改善したわけでも、売上が増えたわけでもありません。
5GとMECはその状況を変えます。通信キャリアにとってエッジは、まさに「生死を分ける要」であり、コンシューマーだけでなく、製造やロジスティクス、自動車、医療など様々な業界で新たな需要を生み出し、収益化の可能性を広げます。
レッドハット アジア太平洋地域 営業担当シニアディレクター(通信分野)の
ベン・パニック(Ben Panic)氏
――収益化において重要な点は何ですか。
パニック アーキテクチャを変えることです。ガートナーも言っていますが、2025年にはエンタープライズ起点のデータの75%がエッジで生まれ、使われるようになります。何をエッジで行い、何をコアで行うのか。通信キャリアは、ネットワークアーキテクチャそのものを変えざるを得ません。
新しいアーキテクチャのキーポイントは3つ、「フレキシビリティ」「エコシステム」「マルチクラウド」です。
5Gの新たなニーズに柔軟に対応するには、オープンなクラウドを使うことと、オープンな環境でパートナーと協力できるエコシステムが欠かせません。そして、マルチクラウドに対応することも重要です。キャリアが自ら構築・運用するプライベートクラウドと、AWSやGoogle等のパブリッククラウドのどちらも必要です。
自前のMECとパブリッククラウドを「使い分け」
――オープンなクラウドを使うこと、マルチクラウドに対応することは簡単ではないように思えます。日本ではNTTドコモが「オープンイノベーションクラウド」という自前のMECを作り、KDDIは「AWS Wavelength」を活用してMECの展開を始めています。
パニック 多くの通信キャリアが今後、マルチクラウド対応になっていくでしょう。なぜなら、アプリケーションによって使い分ける必要が出てくるからです。例えば米ベライゾンは、フットプリントを拡大するためにAWS Wavelengthを使いながら、特に低遅延が要求されるケースでプライベートクラウドのMECを使っています。
日本のキャリアも例外ではありません。現在はネットワークインフラのほとんどを自前の資産として持っているとしても、スケーラビリティの観点から、それだけではニーズに追いつけなくなります。ベライゾンのほかにもテルストラ(オーストラリア)やシングテル(シンガポール)が、自前の展開では追いつかないところでパブリッククラウドを活用しています。
――マルチクラウド対応のメリットは、MECの展開を迅速化できることですか。
パニック もちろん、それだけではありません。プライベートクラウドと複数のパブリッククラウドの間でエッジアプリケーションのワークロードを柔軟に移行できること、つまり、ポータビリティ性が大きなメリットです。最初は自前のMECで始めたサービスを、ユーザー規模が大きくなった時点でパブリッククラウドに移したり、逆に戻したりできます。
ベライゾンは、レッドハットが提供するKubernetesコンテナプラットフォーム「Red Hat OpenShift」(以下、OpenShift)を採用して、こうしたオープンかつフレキシブルな環境を実現しました。