講 師 パナソニック インダストリアルソリューションズ社 | |
本塚裕幸(もとづか・ひろゆき)氏 |
高橋和晃(たかはし・かずあき)氏 |
プロセスデバイス革新センター所属。LTEモデム、IEEE 802.11ad/WiGigモデムやシステム開発に従事。2015年よりIEEE 802.11標準化活動に参画し11ayドラフト作成に寄与。無線方式などに関する研究開発、コネクテッドカー向け応用検討・新規事業創出を担当 | 技術本部 総括担当。マイクロ波からミリ波・テラヘルツ波などの無線システム、デバイスの研究開発に従事。IoTやV2X/コネクテッドカーなどの新規事業創出に向けた研究開発を牽引。2006年よりIEEE 802.11/15標準化活動に参画。ITS情報通信システム推進会議・ミリ波WG主査 |
Q IEEE 802.11ayとは何ですか。
本塚 11ayは100Gbpsを超える、Wi-Fi 6の10倍以上の通信速度を実現する無線LAN規格です。今年7月に正式な規格が発行され、標準化が完了しました。最大の特徴は、直進性が高い60GHz帯のミリ波を使い、ビームフォーミングも活用することです。そのため、見通し通信で、point-to-pointの高速な通信を実現するという強みを発揮します。
特に注目されている11ayの用途としては、無線バックホールがあります。Facebookが提案している都市向けの固定無線システム「Terragraph※1」にもメッシュ状の無線バックホールが活用されており、11ayの技術が適用されていくのではと思います。
※1 Terragraph
街灯など街中の設備に、200~250m間隔でミリ波帯RFモジュールなどを後付けして構成されるワイヤレスバックホール。有線のような大規模な工事不要で、低コストに高速無線を提供できる
図表1 「Terragraph」のイメージ
Q なぜ11ayが登場したのでしょうか。
本塚 60GHz帯を使う無線LAN規格としては、2012年に標準化が完了したIEEE 802.11ad※2があり、11ayは、その後継規格です。11adの無線通信方式は比較的シンプルなものでしたが、これにチャネルボンディングやMIMOを新たに導入することによって、11adから大幅な高速化が実現できるという狙いがありました。
※2 IEEE 802.11ad
WiGigの名称でも知られる60GHz帯無線LAN規格。最大通信速度は7Gbpsで、IEEE規格としては2012年に標準化が完了した。11ayに「WiGig 2」という名称が与えられるかどうかについては「分からない」(高橋氏)とのこと
Q 最大通信速度はどのぐらいですか。
本塚 11ad/11ayの1チャネルあたりの帯域幅は2.16GHzと、Wi-Fiと比べて格段に広いです。各国の周波数割り当てによれば、米国では6チャネル、日本では4チャネルまで使えます。この広大な帯域幅をチャネルボンディングにより束ねられますが、11ayでは4チャネルまで、つまり、トータルで約9GHz幅の広い帯域をボンディングして丸々使えます。
4チャネルを束ねて、OFDMモード・Short GI※3を使った場合の理論上の最大通信速度は37.9Gbpsに達します。MIMOありだと規格上は8ストリーム使えるので、その8倍で300Gbpsを超えます。
※3 GI
ガードインターバルの略。OFDMでデータ伝送の際に付与する冗長部分のこと