通信事業者が今、とりわけ頭を悩ませているのは、5Gサービスを下支えする5Gクラウドネットワーキングとなるデータセンターネットワークの未来像についてだろう。
5Gの特徴である低遅延という要件を満たすべく、エッジコンピューティングの需要が高まった。5Gをトリガーにして、データセンターネットワークの適用範囲も拡大している。並行して、100Gbps、400Gbpsといった広帯域化への対応や接続される機器の増加に伴ってデータセンターネットワーク自体の規模が拡大し、さらに仮想化やコンテナの活用が広がったことで複雑性も増す一方だ。
こうした変化の中で課題となるのは、これらの要件を、コストパフォーマンスに優れた形で、また昨今叫ばれる人手不足の中でいかに実現していくかだろう。
長年にわたりデータセンターネットワークのインフラを支えてきたシスコシステムズでは、この難問に対し、「Intent-Based Networking」というアプローチで解決を図ろうとしている。
Intent-Based Networkingは、日本語に訳せば「直感的なネットワーク」となる。ネットワークの設定や運用管理には、煩雑な作業が必要となり、これまで多くの時間と手間を要していた。これに対して、Intent-Based Networkingでは、ポリシーベースの設定と自動化、リアルタイムの分析という3つの柱を通して、「ビジネスが実現したいこと」を直感的に、迅速かつセキュアに実現できる。
「監視」はできても「可視化」できていない——従来の運用監視が抱える課題 Intent-Based Networkingを支える3つの柱のうち、ポリシーベースの設定、自動化という2つの部分を実現するのがSDNソリューションの「Application Centric Infrastructure」だ。すでにNTTドコモや楽天モバイルをはじめ、大手通信事業者で採用されている。そして、残る「リアルタイムの分析」を実現すべくシスコがリリースしたのが「Cisco Nexus Dashboard」と、この上で動作するアプリケーション「Nexus Dashboard Insight」である。
通信事業者で、SNMPベースのモニタリングソフトウェアを利用したり、Syslogをはじめさまざまなログを取得し、カスタムスクリプトで処理するといった運用監視手法を確立していないところはないだろう。また、NetFlowによるトラフィック監視も広く行われている。
ただ、「こうした手法で取得できるのは、たとえば5分前の機器の状態のスナップショットであったり、ネットワークの状態であったりで、リアルタイムの状況は把握できません。何か問題が起きたときには、さまざまな解析ツールを駆使し、多くの時間をかけて人手で原因を究明していく必要がありました」と、シスコシステムズ 執行役員 サービスプロバイダーアーキテクチャ事業担当の高橋敦氏は語る。
シスコ 執行役員 サービスプロバイダー アーキテクチャ事業担当の高橋敦氏
その上、あまりに多くのログ出力があると重要な情報が大量のノイズの中に埋もれてしまい、問題につながる情報の特定が困難になる。しかもこの作業を進めるには、複数の異なるツールを使い分け、出力結果を突き合わせて解析する必要があり、それができる知識やスキルを備えたオペレーターは自ずと限られてくる。
シスコ サービスプロバイダーアーキテクチャ事業 SP データセンター本部 部長の鈴木 康太氏
そもそも、監視はそれ自体が目的ではない。「監視により多くの情報を得ていても、時間や負荷がかかったり、情報量が多すぎたりするために、それらを分析して意味のある結果を導き出せないのでは、監視はできていても可視化はできていないと言わざるを得ません」と、シスコシステムズ サービスプロバイダーアーキテクチャ事業 SP データセンター本部 部長の鈴木康太氏は指摘する。ひいては可視化を通じて、スイッチファブリックの健全性を確認し、ネットワークの安全性や堅牢性を確保するという通信事業者の最大の目的を達成することもできない。
図表1 可視化を通じて把握したいこと