台湾では、行政の最高機関である台湾行政院(日本の内閣府)が、2019年5月10日に「台湾5Gアクションプラン」というロードマップを核定(日本でいう内閣閣議決定)し、それ以降、5Gの普及促進に係る取り組みを進めている。
同ロードマップでは、2019~2022年までの4年間で、5G発展のために204億6600万台湾元(約800億円)を投資することや、5G関連産業の年間生産額として500億台湾元(約2000億円)を創出すること、約4000人の人材を育成することなどの数的目標が定められている。
同ロードマップはまた、様々な課題を解決する5Gのアプリケーションを、「人」「都市」「地域」の3つの観点から定義している。例えば、「人」の観点ではスマートヘルスケア、遠隔授業、「都市」の観点ではスマートビルディング、AIセキュリティなどのアプリケーションが想定されている。また、これらのアプリケーションが提供される環境として、病院や工場、道路といった計10のフィールドが定められている。
図表1 台湾5Gアクションプラン:5つの注力テーマ
ローカル5Gに関する政策は、上述の台湾5Gアクションプランの一部(5つの注力テーマの④が該当)として検討が進められており、2019年12月に、ローカル5Gに関する検討を開始することを宣言した後、複数の実証実験を推し進めてきた(実証内容は後述)。
そして、2021年末あるいは2022年には、正式にローカル5Gの運用ができるよう、周波数の割当を開始する予定だ。台湾における周波数割当の制度は、日本やドイツと同様、申請した事業者に対しローカル5G用の無線局免許を付与するものであり、オークション制を採用している米国とは異なる。また、割り当てられる周波数帯は、4.8G~4.9GHz帯のうちの100MHz幅であり、日本でローカル5G用に割り当てられている帯域と同じである。
製造業で進む実証実験これまで行われてきたローカル5Gに関する実証実験の1つに、パナソニック台湾とサーバー関連のソリューションを開発・販売する雲達科技(QCT:Quanta Cloud Technology)が台南市で実施した、工場における生産ラインのスマート化がある。
この実証は、MR(Mixed Reality)とAI画像認識技術を組み合わせ、遠隔作業支援を実証するものだ。作業者はスマートグラスを装着して作業を行い、その際にスマートグラス内蔵カメラで撮影された映像がサーバーに送信され、AIがそれを処理することで、作業者には加工位置や加工手順、部品の取り扱い方などのガイダンスや、加工の正誤といったフィードバック情報などが瞬時に伝えられる。なお、この実証が行われた台南市は、5Gによるイノベーションを強く推進する地方都市の1つとして、日台企業が共同で5Gの技術開発に取り組む「5G台南チーム」の結成や、5G機器の研究開発を目的とした実験場の設置を行ってきた。この実証も、5G実験場にて実施された。
もう1つの代表的なローカル5Gの実証実験としては、サーバー製品を展開する英業達(Inventec)による自動光学検査(AOI)システムの高度化が挙げられる。AOIとは、生産現場においてAIを活用して製品の外観検査を行う技術のことを指す。Inventecは、従来からAOIを活用していたが、AOIは生産ラインごとに設置されており、AI学習も生産ラインに閉じていた。これは、従来の通信規格ではAOIでスキャンした画像をすべてクラウドサーバーに送ることができず、生産ラインごとに設置したサーバーで処理していたためである。
しかし、ローカル5Gを活用することで、10本ある生産ラインでスキャンされた画像をすべてまとめてクラウドサーバーに送ることができるようになり、AIの学習精度は飛躍的に高まり、それに伴いAOIの検査精度も向上する。この取り組みによって、人力によるダブルチェックや、生産ラインの数だけ置かれたAOIを監視・管理する必要があったエンジニアの労力が削減できるようになり、トータルで90%のマンパワーが削減できるという。